絶壁とくせ毛、二つの個性を活かして魅せる髪型
後頭部に自然な丸みが欲しい「絶壁」の骨格と、思うようにまとまらず広がりやすい「くせ毛」の髪質。この、まるで正反対の性質を持つ二つのお悩みを同時に抱え、ご自身の髪型を半ば諦めてしまっている方もいらっしゃるかもしれません。「後頭部に長さを残せば髪が広がり、短くすれば骨格が目立ってしまう」そのようなどうすることもできないと感じるお気持ちは、察するに余りあります。しかし、その一見すると扱いにくい二つの個性こそ、専門的な技術で向き合うことで、他にはない特別な魅力を秘めた髪型を生み出す、最高の素材となり得るのです。
発想の転換:「活かす」くせと「抑える」くせの見極め
絶壁とくせ毛というお悩みを解決するための鍵は、ご自身のくせ毛を「敵」ではなく「味方」と捉える、発想の転換にあります。全てのくせを無理に抑え込むのではありません。後頭部の平坦な部分を補うために、その部分のくせ毛が持つ自然な動きやボリュームを「活かし」、逆に広がりやすい側頭部などのボリュームは的確に「抑える」。この、髪が生える場所ごとの役割を正確に見極め、活かす部分と抑える部分を緻密に設計することこそが、二つの個性を調和させるための第一歩となります。
二つの個性を調和させる、立体的なカット設計
くせ毛のボリュームを、絶壁を補うための立体感へと変換するためには、非常に高度なカット設計が求められます。まず、広がりが気になる側頭部(ハチ周り)のボリュームを、髪の内側を調整するなどして的確に抑えます。そして、その分の視覚的なボリュームを、後頭部の最も高さが欲しい部分へと「配置転換」するように、髪の長さを計算してカットします。さらに、ただ広がるだけに見えがちなくせを、計算された柔らかな毛束(カール)として見えるように、毛先の質感や髪の断面を調整します。最後に、くせが出やすい襟足をすっきりと引き締めることで、後頭部に創り出した柔らかな立体感がより一層際立ち、どこから見ても美しいシルエットが完成するのです。
驚くほど扱いやすくなる、毎日の簡単な手入れ
ご自身の髪質を「扱いにくい」と感じてこられたかもしれませんが、骨格と髪質に合わせて正確にカットされた髪は、驚くほど手入れが簡単になります。ご自宅での手入れで最も大切なのは、お風呂上がりに髪の根元をしっかりと乾かすことです。そして、保湿効果のある整髪料などを、後頭部の髪を持ち上げるように優しく揉み込むだけで、カットによって計算されたくせの動きが美しく再現され、一日中まとまりのある髪型を保つことができます。
お客様の複雑なお悩みこそ、私たちの喜びです
「絶壁で、しかもくせ毛」というような、複雑で難しいお悩みをお聞かせいただくことは、私たち理容師にとって、決して困ったことではありません。むしろ、それは私たちの技術と知識を最大限に発揮できる、挑戦の機会であり、大きな喜びです。お客様一人ひとりの髪のうねり方、骨格の形を、まるで一点物の芸術品を扱うように丁寧に見極め、最高の答えを導き出す。その誠実なプロセスこそが、お客様の長年のお悩みを、輝く自信へと変える唯一の道であると信じております。
最後に
これまでご自身の髪質や骨格を、悩みの種として捉えてこられたかもしれません。しかし、適切な知識と技術を持つ専門家と出会うことで、その二つの個性は、あなただけの特別な魅力を創り出すための、かけがえのない要素となり得ます。ご自身の髪を、初めて心から「好き」だと思えるかもしれない。その感動的な体験を、ぜひ私たちと分ち合わせていただけましたら幸いです。