スポーツ刈りを「すく」技術|ただ量を減らすだけではない、プロの質感調整
そのスポーツ刈り、「ヘルメット」になっていませんか?
清潔感のあるスポーツ刈りにしたはずが、どうにもシルエットが丸く、重たい。「ヘルメットを被っているみたいだ」。特に、髪の量が多い方や、一本一本がしっかりしている剛毛の方が、短いスタイルに挑戦した際に、陥りがちな悩みです。その解決策として、多くの人が思い浮かべるのが、髪を「すく」という行為。しかし、この一見すると単純な作業こそが、プロの技術力が最も問われる、非常に繊細な領域であることを、あなたはご存知でしょうか。
なぜ、スポーツ刈りを「すく」必要があるのか
まず、なぜ、髪をすく(毛量を調整する)必要があるのでしょうか。それには、スタイルを格上げするための、明確な目的があります。
・重たい「ヘルメット感」の解消
髪の量が多すぎると、スタイル全体が重たく、野暮ったい印象になります。適切な毛量調整は、シルエットをシャープで、コンパクトに見せるために不可欠です。
・トップに「動き」と「束感」を与える
トップの髪が、ただの重い塊の状態では、ワックスを付けても、上手く動きや束感が生まれません。髪の内側の量を減らし、軽さを与えることで、スタイリングが驚くほど簡単で、楽しいものに変わります。
・夏の「蒸れ」や「乾きにくさ」を軽減
髪の密度が高いと、特に夏場は、頭皮が蒸れやすく、また、シャンプー後に髪が乾きにくいといった、実用的な問題も発生します。毛量を調整することで、日々の快適さも向上します。
自己流で「すく」ことの、取り返しのつかないリスク
「すきバサミなら、自分でもできそうだ」。そう考える方もいるかもしれません。しかし、私たちは、その行為が、あなたのヘアスタイルを、数ヶ月間、修復不可能な状態にしてしまう、非常に高いリスクを伴うことを、お伝えしなければなりません。
・リスク1:「ぴょんぴょん」と跳ねる、無数の短い毛
最も多い失敗が、これです。すきバサミを、髪の表面に近い部分や、不適切な角度で入れてしまうと、髪の内側に、ぴょんぴょんと跳ねる、無数の短い毛が発生してしまいます。これにより、髪の表面がパサついて見え、清潔感が完全に失われます。
・リスク2:シルエットの崩壊
ただやみくもに量を減らしてしまうと、スタイルを支えるために必要な部分の髪まで失ってしまい、全体のシルエットが崩壊してしまいます。トップはぺたんこになり、サイドはスカスカになる。そんな、悲劇的な結果を招きかねません。
・一度、失敗したら、「伸びるのを待つ」しかない
そして、最も恐ろしいのが、一度この失敗をしてしまうと、その短い毛が伸びて、周りの髪と馴染むまでの数ヶ月間、ただひたすら、我慢して待ち続けるしか、解決策がなくなってしまう、ということです。
プロは「すきバサミ」だけに頼らない。質感調整の奥義
私たちプロの理容師は、お客様の髪を「すく」際に、決して、すきバサミだけに頼ることはありません。お客様の髪質、骨格、そして、なりたいスタイルに合わせて、様々な道具と技術を使い分け、髪の「質感」そのものを、デザインしていくのです。
・根元からの、的確な毛量調整
特殊なハサミを使い、髪の根元近くにアプローチします。これにより、髪の表面の長さやツヤは一切変えることなく、内側の、本当に不要なボリュームだけを、的確に取り除くことが可能です。
・スライドカット/ストロークカット
ハサミを開閉しながら、髪の表面を滑らせるようにして使う、高度な技術です。これにより、毛束を柔らかく、そして、自然に先細りにしていくことで、髪に、生まれつきのような、しなやかな動きを与えます。
・計算され尽くした、すきバサミの使い方
もちろん、私たちも、すきバサミを使います。しかし、それは、髪の表面ではなく、内側に、必要な箇所にだけ、完璧に計算された角度と、回数で、入れていくのです。
理容室(バーバー)でのオーダー方法
あなたの悩みを、プロの技術で解決するために。オーダーの際は道具を指定するのではなく、あなたの「悩み」と「なりたい姿」を、私たちに伝えてください。
・あなたの「悩み」を、そのまま伝える
「髪の量が多くて、スポーツ刈りにすると、いつもヘルメットみたいに膨らんでしまいます。すっきりしたシルエットになるように、量を調整してください」
この一言で、私たちは、あなたの悩みの全てを理解します。
・あなたの「なりたい姿」を伝える
「トップをワックスでスタイリングした時に、動きと束感が出やすいように、軽くしてほしいです」
その希望を叶えるために、最適な技術を選択するのは、私たちの仕事です。
まとめ
スポーツ刈りをもっとお洒落に、もっと快適にするための「毛量調整」。それは、ただ髪の量を減らす、単純な「作業」ではありません。それは、あなたの髪のポテンシャルを最大限に引き出し、理想のシルエットと質感を創り上げる、プロの理容師だけが持つ、繊細で、奥深い「技術」なのです。取り返しのつかない失敗をしてしまう前に、ぜひ一度、あなたの髪を、その素材の良さを知り尽くした、私たち専門家に、委ねてみてはいかがでしょうか。