「スタイリストは、大変なことばかり」それでも私たちが、ハサミを置かない理由
お客様の前では、常に笑顔を絶やさず、軽やかな手つきで髪を操る、ヘアスタイリスト。その華やかで、創造的な仕事の姿に、憧れを抱く方も少なくないかもしれません。しかし、その輝かしい舞台の裏側には、一般にはあまり知られることのない、数え切れないほどの「大変なこと」が存在します。この記事では、私たちが日々向き合っているその厳しい現実と、それでもなお、この仕事に誇りを持ち、お客様の前に立ち続ける、その「想い」の源泉について、少しだけ、正直にお話しさせていただきたいと思います。
身体と向き合う、終わりのない挑戦
スタイリストの仕事は、まず何よりも、自身の身体と向き合う、終わりのない挑戦から始まります。営業中は、ほぼ一日中立ち続け、お客様の頭の形や髪の流れに全神経を集中させます。その結果、多くのスタイリストが、足や腰に慢性的な痛みを抱えることになります。また、私たちの商売道具である「手」は、シャンプーや薬剤に一日何度も触れることで、宿命ともいえる手荒れとの、絶え間ない戦いを強いられます。そして、お客様のいない早朝や深夜にまで及ぶ、来る日も来る日も続く、厳しい技術トレーニング。お客様の前に、プロフェッショナルとして立つために、これらは決して避けては通れない道なのです。
技術と感性を、磨き続けるという孤独
肉体的な厳しさと並行して、私たちは、技術と感性を生涯にわたって磨き続けるという、孤独な戦いにも身を置いています。ヘアスタイルのトレンドは、めまぐるしい速さで移り変わり、新しい技術や薬剤の知識は、常にアップデートし続けなければなりません。お客様に、常に最高のデザインを提案し続けるためには、休日でさえも、街に出て人間観察をしたり、美術館に足を運んだりと、自らの感性を磨くためのインプットを、決して怠ることはできないのです。そして何よりも、私たちが向き合うのは、後戻りの許されない、一回勝負の真剣な仕事であるという、重いプレッシャーです。このハサミの一振りが、お客様の人生を、良くも悪くも左右するかもしれない。その責任の重さを、私たちは常にその両肩に感じています。
それでも、この仕事が「最高」だと断言できる理由
ここまで、この仕事の「大変なこと」ばかりをお話ししてきました。ではなぜ、私たちは、これほどの厳しさを乗り越えてまで、この仕事を続けるのでしょうか。その理由は、驚くほどシンプルで、そして、たった一つしかありません。それは、全ての苦労が、一瞬にして計り知れない喜びに変わる、魔法のような瞬間。すなわち、「お客様の、最高の笑顔」に出会えるからです。
新しいヘアスタイルになったご自身の姿を、鏡の中で見つめ、本当に嬉しそうに、はにかむような笑顔を浮かべてくださった、その瞬間。私たちの心は、言葉にできないほどの幸福感で満たされます。「ありがとう」「あなたに任せて良かった」「明日から、また頑張れそうです」。お客様からいただく、その温かい一言が、私たちの魂を深く震わせ、昨日までの全ての疲れを忘れさせ、そして、次の日もまた、お客様のためにハサミを握るための、何物にも代えがたい、純粋なエネルギーとなるのです。
私たちにとって、スタイリストとは、単なる職業ではありません。それは、お客様の人生という、かけがえのない物語に、ほんの少しだけ関わらせていただき、その輝きを増すお手伝いをする、という「生き方」そのものです。どんなに大変なことがあっても、お客様一人ひとりと、どこまでも真摯に向き合う。この「誠実さ」こそが、私たちの原点であり、揺るぎない誇りなのです。
あなたの髪に触れる、その手のひらの意味
もし、あなたが次にヘアサロンを訪れる機会がありましたら、どうか、あなたの髪にそっと触れる、担当スタイリストの「手」を、少しだけ意識してみてください。その少し荒れた無骨な手は、数え切れないほどの厳しい練習と、数え切れないほどのお客様への、感謝と愛情が深く刻まれた、プロフェッショナルとしての、何よりの勲章です。
私たちの「大変」を、あなたの「最高」に変えるために
スタイリストが日々乗り越えている、数々の「大変なこと」。その全ては、最終的に、たった一人のお客様の、「最高の笑顔」と「最高の一日」のために存在します。私たちは、日々の全ての苦労を、あなたの輝きに変えるための力として、今日もこの場所に立っています。私たちの、そんな不器用で、しかし真っ直ぐな想いが詰まったこの場所で、あなたにお会いできることを、心から楽しみにしております。