散髪屋の魂。プロが使う道具の世界とそのこだわりに迫る
お客様が散髪屋(理容室)の椅子に腰掛け、鏡の前に座る時。私たちの手の中で、ハサミがリズミカルな音を立て、バリカンが滑らかに動く光景を目にされることでしょう。それらの道具は、私たち理容師にとって、単なる仕事のツールではありません。自らの技術を正確に表現し、お客様に最高の仕上がりをお届けするための、いわば魂の延長とも言えるほどに大切な「相棒」なのです。今回は、普段あまり語られることのない、プロが使う道具の世界にご案内し、そこに込められた私たちのこだわりをご紹介いたします。
スタイルを創り出す、基本の三種の神器
数ある道具の中でも、メンズのヘアスタイルを創り上げる上で欠かすことのできない、三つの基本的な道具がございます。一つ目は「シザー(鋏)」です。髪に余計なダメージを与えずに切断するための、鋭い切れ味こそがその命です。お客様の頭の形や創り出すスタイルに合わせ、長さを切り揃えるためのもの、毛量を調整するための「セニングシザー(すきバサミ)」などを巧みに使い分けます。二つ目は「クリッパー(バリカン)」です。ミリ単位で長さを調整できるアタッチメントを駆使し、理容室の真骨頂である美しい刈り上げのグラデーションを生み出します。そして三つ目が「レザー(剃刀)」です。お顔そりはもちろんのこと、もみあげや襟足のラインをどこまでもシャープに整えるためにも用いられ、その扱いには熟練の技術が求められます。
名脇役たちが支える、快適な時間
主役級の道具たちの他にも、お客様の快適な時間を支える、数多くの名脇役たちが存在します。髪を正確に分け取り、精密なカットの道しるべとなる「コーム(櫛)」。きめ細かくクリーミーな泡でお客様の肌を守る「シェービングブラシ」。そして、切った髪の毛がお洋服の中に入るのを防ぎ、お客様の肌にクロスが直接触れないようにするための衛生的な配慮である「ネックペーパー」。これら一つひとつの道具にも、お客様に心地よくお過ごしいただくための、私たちの想いが込められています。
道具の手入れにこそ、理容師の姿勢は表れる
私たちの仕事は、最後のお客様がお帰りになった後、静かになったお店で再び始まります。その日一日を共に戦ってくれた道具たちへの感謝を込めて、シザーを分解して丁寧に汚れを拭き取り、油を差す。クリッパーの刃を清掃・消毒し、切れ味を確かめる。レザーの刃を整える。この地道で静かな手入れの時間こそ、理容師の仕事への姿勢が最も表れる瞬間かもしれません。道具を常に最高の状態に保っておくこと。それは、明日ご来店いただくお客様に対して、私たちがご提供できる最高のパフォーマンスをお約束するための、最低限の礼儀であり、誠実さの証なのです。
理容室に整然と並ぶ一つひとつの道具には、お客様を格好良く、そして快適にするための洗練された機能と、それを扱う理容師の熱い想いが詰まっています。次に理容室の椅子に座られる際には、ぜひ、私たちの手元で輝く道具たちにも少しだけご注目ください。そこには、私たちの仕事への誇りと、お客様への真摯な気持ちが見えるはずです。