センターパートで創る「無造作ヘア」。計算された、力の抜き方
完璧に整えられ、一分の隙もない、シャープなセンターパート。その美しさもさることながら、現代のファッションシーンやライフスタイルにおいては、まるで何もしていないかのような、力の抜けた「無造作」なスタイルが、より洗練されたものとして、多くの支持を集めています。
しかし、この「無造作ヘア」、一歩間違えれば、ただの「手入れされていない、ボサボサの髪」に見えてしまう、非常に難易度の高いスタイルでもあります。
この記事では、センターパートスタイルにおける、意図した、計算され尽くした「無造作感」の創り方を、スタイリングの基本から、その土台となる、最も重要な考え方まで、詳しく解説していきます。
「無造作」と「ただのボサボサ」、その決定的な違いとは
まず、この二つの決定的な違いを、理解する必要があります。その境界線は、「清潔感」と「計算されたシルエット」にあります。
「ただのボサボサ」は、寝癖がそのまま残り、毛先はパサつき、全体のシルエットも崩れた、まさに無秩序な状態です。
一方で、お洒落な「無造作ヘア」は、その土台に、清潔に保たれた髪と、計算された美しいシルエットが存在します。その上で、あえて、毛束をランダムに動かしたり、質感をドライに仕上げたりすることで、「意図的に」ラフな雰囲気を創り出しているのです。つまり、無造作ヘアとは、「完璧な基礎」の上に成り立つ、高度なスタイリング技術と言えます。
なぜ、無造作スタイルは魅力的に見えるのか
作り込まれたスタイルにはない、無造作ヘアならではの魅力とは、一体何でしょうか。
・親しみやすい、柔らかな印象
完璧に固められたスタイルが、時に、近寄りがたい印象を与えるのに対し、無造作ヘアの持つ、柔らかな動きと質感は、親しみやすく、優しい人柄を演出します。
・作り込みすぎていない、お洒落な「こなれ感」
「頑張ってお洒落をしています」という雰囲気がなく、あくまで自然体。そのエフォートレスな佇まいが、かえって、その人のファッション感度の高さを物語ります。夏の、リラックスした服装との相性も抜群です。
・寝癖さえも、味方につける
多少の寝癖や、風による乱れさえも、計算された無造作ヘアの上では、スタイルの一部として溶け込んでしまいます。一日中、神経質に髪型を気にする必要がありません。
・骨格を自然にカバーする効果
ランダムに動く毛束が、気になるフェイスラインを、カモフラージュするように、自然に、そして、ソフトにカバーしてくれます。
無造作感を創り出す、スタイリングの全手順
それでは、具体的なスタイリング方法を見ていきましょう。ポイントは、「ドライヤー」で無造作の土台を作り、「スタイリング剤」で質感を加える、という二つのステップです。
ドライヤー工程:ランダムな動きの土台を創る
まず、髪全体を濡らした状態から、ドライヤーで、意図的に、ランダムな動きを仕込んでいきます。分け目を気にせず、髪を前に、後ろに、左右にと、あらゆる方向から風を当て、根元を様々な方向に動かしながら乾かします。そして、中間から毛先にかけては、髪を手のひらで、くしゃっと優しく握りながら乾かす(スクランチドライ)ことで、自然なクセのような動きが生まれます。
スタイリング剤工程:ドライな質感を加える
・手順1:マット系ワックスを、少量、手のひらに取る
無造作ヘアに、ツヤは禁物です。必ず、ツヤの出ない、マットタイプか、クレイ(土)タイプのワックスを、米粒大ほど、ごく少量取ります。
・手順2:指の間まで、しっかりと、透明になるまで伸ばす
取ったワックスを、手のひら、そして、指の間まで、完全に透明になるまで、しっかりと擦り合わせるように伸ばします。
・手順3:髪の根元近くに指を入れ、シャンプーするように、髪を振る
これが、最も重要な工程です。髪の表面から付けるのではなく、髪の内側、根元近くに指を差し込み、地肌を擦るように、あるいは、髪全体を激しく振るようにして、ワックスを均一に馴染ませます。
・手順4:毛束をランダムに、握ったり、ねじったりして、動きを作る
全体にワックスが馴染んだら、指先で、毛束を、ランダムな方向に、握ったり、散らしたり、ねじったりして、最終的な動きと束感を創り出します。
・手順5:最後に、全体のシルエットを整える
鏡を少し離して見て、全体のシルエット(特に、ハチの膨らみや、トップの高さ)を、手で抑えたり、つまんだりして、最終調整をすれば完成です。
「計算された無造作」は、カット技術の結晶である
ここまで、ご自身でできる無造作ヘアの作り方を解説しました。しかし、なぜ、プロが創る無造作ヘアは、あんなにも、ラフなのに、バランスが良く、そして、品があるのでしょうか。
その秘密は、全て、「カット」にあります。
プロの理容師は、お客様が、自宅で、ただワックスを揉み込むだけで、自然とお洒落な無造作ヘアになるように、あらかじめ、カットの段階で、全ての「仕込み」を完了させています。
髪の重さが溜まりやすい部分の内側を、見えないように、緻密に、軽くする。毛先一本一本が、ランダムな方向を向くように、特殊なハサミの使い方で、質感を入れる。あるいは、直毛でどうしても動きが出ない髪には、ごくゆるいパーマをかけて、無造作の「土台」そのものを創ってしまう。
つまり、お客様が、何気なく、ラフにスタイリングした時に、その髪が、最も美しく、そして、最もバランスの良い「無造作」な状態に着地するように、その「着地点」を、カットによって、あらかじめデザインしているのです。
まとめ
センターパートの無造作ヘアは、作り込みすぎない、自然体の魅力を最大限に引き出してくれる、現代的で、洗練されたスタイルです。その日の気分で、少しだけ、力の抜けた自分を演出したい。そんな時に、最高のパートナーとなってくれるでしょう。
そして、その、一見、簡単そうに見えるスタイルの裏側には、プロフェッショナルによる、膨大な知識と、緻密なカット技術が隠されています。
あなたも、ただの「ボサボサ」から卒業し、本物の「計算された無造作」を、手に入れてみませんか。