「ヘアミスト」と「ヘアスプレー」の違いとは?髪型を整える二つの霧の使い分け
ご自身の髪型を整える際、髪に直接液体を吹き付けて使う「噴射式」の整髪料は、手を汚さずに使えたり、髪全体に均一につけやすかったりと、非常に手軽で便利な道具です。その代表格として、多くの方が「ヘアミスト」や「ヘアスプレー」といった製品を、一度は手に取られたことがあるのではないでしょうか。しかし、この二つの言葉を、何となく同じような霧状の整髪料として、捉えてしまってはいらっしゃいませんでしょうか。実は、この二つは、その製品が作られた目的も、中に含まれる成分も、そして髪に与える効果も全く異なる、似て非なる存在なのです。この記事では、この「ミスト」と「スプレー」の明確な違いと、それぞれの能力を最大限に引き出すための正しい使い分けについて、髪の専門家である理容師の視点から詳しく解説してまいります。
役割の根本的な違い、「土台作り」か、「仕上げ」か
まず、この二つの道具が持つ、最も本質的な役割の違いについて、ご説明いたします。それは、髪型作りの一連の流れの中で、それぞれが担う「工程」が全く異なる、ということです。
「ヘアミスト」の役割は『下準備、土台作り』
まず、「ヘアミスト」は、主に霧吹き状の容器に入っており、水に近く、比較的粒子の大きなしっとりとした霧が出るのが特徴です。その主な役割は、乾いた髪に水分を補給し、睡眠中についてしまった頑固な寝癖をリセットしたり、髪全体の絡まりをほどいて、その後の整髪がしやすい「素直な状態」に戻したりすることにあります。皆様がよくお使いになる「寝癖直しウォーター」なども、このヘアミストの仲間です。いわば、本格的な整髪料をつける前の、髪を整えるための「下準備」を専門とする道具なのです。
「ヘアスプレー」の役割は『仕上げ、固定』
一方で、「ヘアスプレー」は、主にガスが充填された缶に入っており、非常にきめ細かく、そして乾いた霧が出るのが特徴です。その主な役割は、ヘアワックスやヘアジェルといった他の整髪料を使って、丹精込めて作り上げた髪型を、最終的にその形のまま固定し、湿気や風といった外部の刺激から守ることにあります。髪型作りの、まさに最後の工程で使う、「仕上げ」を専門とする道具といえるでしょう。
それぞれの主な特徴と、得意なこと
その役割の違いは、製品の主な特徴にもはっきりと表れています。ヘアミストの主成分は、「水」と、髪に潤いを与える「保湿成分」です。髪をしなやかにし、扱いやすくすることを得意としますが、髪型を維持するほどの力は、基本的には持っておりません。それに対して、ヘアスプレーの主成分は、髪の表面に薄い膜を作る「樹脂成分」と、それを素早く乾かすための「速乾性の高いアルコール」などです。髪が濡れることはほとんどなく、吹き付けた瞬間から、髪型をその形で維持し始めます。
正しい使い分けと、その順番
それでは、この二つの道具は、どのような順番で使うのが最も効果的なのでしょうか。答えは、それぞれの役割を考えれば、自ずと見えてまいります。まず、朝の整髪の「始まり」に使うのが、「ヘアミスト」です。乾いた髪の、寝癖がついている部分の根元を中心に、髪がしっとりとするまでミストを吹き付け、髪をリセットします。次に、ドライヤーを使って、髪を乾かしながら、ご自身が作りたい髪型の土台を作ります。そして、ヘアワックスなどの整髪料で細かな形を整えた後、その全ての工程の「終わり」に、作った髪型を一日中維持するために使うのが、「ヘアスプレー」なのです。髪から20センチメートル以上離して、全体に薄く均一にかけるのが、美しく仕上げるためのこつです。
二つの霧を制する者は、髪型を制する
「ヘアミスト」と「ヘアスプレー」は、どちらが優れている、というものでは決してございません。それぞれに、代わりの効かない、髪型作りにおける非常に重要な役割を持った、全く別の専門道具なのです。髪型作りの「始まり」を担う、しっとりとした霧と、「終わり」を担う、乾いた霧。この二つの霧の特性を正しくご理解いただき、巧みに使い分けることで、あなたの毎日の整髪は、より簡単で、よりプロフェッショナルなものへと、大きく変わっていくことでしょう。もし、ご自身の髪質や理想の髪型に合わせた、最適なミストやスプレーの選び方、そしてより高度な使い方についてお知りになりたい場合は、ぜひ一度、私たち髪の専門家である理容師にご相談ください。