その散髪で、毎朝が変わる。「ノーセット」を前提とした髪型の創り方
「そろそろ髪が伸びてきたから、散髪に行かなくては」。そのように考えた時、多くの方は、散髪が終わった直後の、すっきりと整えられたご自身の姿を想像されることでしょう。しかし、もしその一度の散髪によって、翌日からの毎朝の準備が格段に楽になり、特別な整髪、つまり「ノーセット」をしなくても格好良い毎日が手に入るとしたら、いかがでしょうか。今回は、単に髪を切るという行為に留まらず、未来の快適な日々を手に入れるための、「ノーセットを前提とした散髪」という考え方についてお話しいたします。
「ノーセット」は、散髪の瞬間に決まる
まず、皆様に知っていただきたい最も大切なことがあります。それは、毎朝の髪が整髪なしで決まるかどうかは、その日の寝癖のつき方やご自身の乾かし方の技術以上に、散髪の段階での「カットの設計」によって、そのほとんどが決定づけられてしまう、という事実です。整髪料を使って形を作ることを前提としたカットと、何もしなくても髪が自然にまとまることを前提としたカットとでは、その根本的な考え方からして全く異なるのです。
「ノーセット」を前提としたカットとは
では、「ノーセット」を前提としたカットとは、具体的にどのようなものでしょうか。それは、お客様一人ひとりが持つ、生まれながらの個性を最大限に尊重することから始まります。例えば、お客様の頭の骨格や、髪が本来生えている方向、いわゆる「生え癖」に決して逆らうことなく、髪が最も自然に収まるべき場所へと落ち着くように、丁寧に道を創っていきます。また、全体のシルエットを美しく保つための「重さ」と、髪に動きやまとまりを与えるための「軽さ」を、髪の内側と外側で巧みに使い分け、計算し尽くされたバランスを創り上げます。
散髪の前に考えておきたいこと
よりご満足いただける散髪の時間とするために、理容室を訪れる前に、少しだけご自身の日常を振り返ってみるのも良いかもしれません。例えば、「普段、髪の手入れにどれくらいの時間をかけているだろうか」「朝は櫛でとかすだけで済ませたいな」といったように、ご自身の習慣や、髪型に対する理想の「楽さ」を、ぼんやりとでも良いのでイメージしてみてください。そのイメージが、私たち理容師にとって、お客様への最適なご提案をするための、何よりの道しるべとなります。
理容室で伝えるべき、最も大切な言葉
理容室の椅子に座り、どのように注文すれば良いのか、と難しく考える必要はございません。お洒落な髪型の名前を覚えていただく必要もありません。私たち理容師にとって、お客様からお聞きしたい最も大切な言葉。それは、「普段、整髪をしないので、ノーセットでも決まる髪型にしてください」という、お客様のありのままの習慣と、最終的なご要望です。この一言さえお伝えいただければ、誠実な理容師は、その想いを叶えるために、持てる限りの専門的な知識と技術を駆使して、お客様にとっての最善の髪型を考え、ご提案させていただきます。
散髪は、未来への投資
優れた理容師による「ノーセット」を前提とした散髪は、単に髪を切ってさっぱりとするためだけの時間ではありません。それは、これから始まる一ヶ月、あるいは二ヶ月間の、貴重な「朝の時間」と「一日を通しての快適さ」を手に入れるための、非常に価値のある投資と言えるのではないでしょうか。その場しのぎの整髪に頼るのではなく、ご自身の髪の土台そのものから整えることで、日々の暮らしはより豊かで、質の高いものへと変わっていくはずです。
次の散髪から、新しい毎日を
「ノーセット」で快適に過ごせるかどうかは、次にあなたが理容室の椅子に座り、担当者にどう伝えるかで、大きく変わる可能性があります。お客様の髪に関するお悩みを解決し、毎日をより晴れやかな気持ちで過ごしていただくこと。それこそが、私たちの仕事における、最も大きな喜びです。次の散髪の機会には、ぜひ勇気を出して、あなたの「ノーセットで過ごしたい」という純粋な想いを、私たちに聞かせていただけないでしょうか。