「軟毛」の短髪をノーセットで。ぺたんこ髪に、自然な立体感を出す秘訣
その柔らかく、しなやかな質感は、「軟毛」という髪質が持つ、本来とても美しく、優しい個性です。しかしその一方で、髪にハリやコシが出にくいために、「短髪にすると、頭の頂点部分がぺたんとして、ボリュームが出ない」「整髪をしないと、どこか寂しい印象に見えてしまうのではないか」といった、軟毛ならではの、長年にわたる深いお悩みを抱えていらっしゃる方も、決して少なくないことと存じます。今回は、そんな軟毛という素晴らしい個性を最大限に活かし、整髪をしない「ノーセット」の状態でも、ふんわりとした自然な立体感を持つ短髪スタイルを創り出すための、カットの考え方についてお話しいたします。
なぜ軟毛は「ぺたんこ」になりやすいのか
まず、ご自身の髪質が持つ特性について、少しだけ理解を深めてみましょう。軟毛は、髪の一本一本が細く、しなやかであるため、髪そのものの重さや、日常的にかかる重力に負けて、根元が寝てしまいやすい、という特徴があります。特に、髪にある程度の長さがあると、その重さによって、さらに根元が潰れやすくなってしまいます。この特性を正しく理解することが、髪をふんわりと「立ち上がらせる」ための、大切な第一歩となります。
立体感を創り出す、カットの三つの原則
整髪料の力に頼らず、カットの技術だけで、軟毛の短髪に自然なボリューム感を出すためには、いくつかの基本的な原則があります。一つ目の原則は、横の部分、つまりサイドの髪をすっきりと短く刈り込むことです。そうすることで、人の視線は自然と、長さの残っている頭の頂点部分に集まります。この目の錯覚の効果によって、トップの部分が相対的に高く、ボリュームがあるように見えるのです。二つ目の原則は、そのトップの髪の「立ち上がる長さ」を見極めることです。髪は、長すぎると重さで寝てしまい、短すぎても立ち上がることができません。軟毛が、髪自身の力でふんわりと立ち上がることができる「最適な短さ」でカットを施します。そして三つ目の原則が、トップ部分の髪の根元を中心に、外からは見えないように毛量を減らし、髪一本一本を軽くしてあげることです。これにより、髪の根元がより立ち上がりやすい、理想的な環境を創り出すのです。
軟毛の方におすすめの短髪スタイル
これらの原則を活かした、軟毛の方にこそおすすめしたい、代表的な短髪のスタイルがございます。まず、サイドを短くし、トップに自然な高さを出す「ソフトモヒカン」は、軟毛のボリューム不足というお悩みを、最も効果的に、そして格好良くカバーできる髪型の一つです。また、全体を潔く短くすることで、髪が重さで寝てしまう前にカットされ、髪の根元が自然と立ち上がりやすくなる「ベリーショート」も、非常に相性の良い選択です。
乾かし方で、ボリュームはさらに変わる
カットによって創り出された「立ち上がりやすい土台」を、ご自宅で最大限に活かすための、簡単な手入れのコツもございます。髪を乾かす際に、ドライヤーの風を下から上に向かって、特に髪の根元に送り込むようにしてみてください。頭皮を優しくこするようにしながら乾かすと、髪の根元が様々な方向から立ち上がり、よりふんわりとした、豊かなボリュームが生まれやすくなります。
理容室で「悩み」を「希望」に変える言葉
理容室を訪れた際には、どうぞご自身の髪に関するお悩みを、ありのままお聞かせください。「軟毛で、髪がどうしてもぺたんとしてしまいやすいのが悩みです」と、率直にお話しいただくことが、解決への最も重要な一歩です。その上で、「短髪で、ノーセットでも、トップに自然なボリュームが出るようにしたいです」と、ご自身がなりたい理想のイメージをお伝えいただければ、私たち専門家は、そのお悩みを解決するための、専門的な技術を駆使し、最適な髪型をご提案させていただきます。
髪質は、あなたの個性。悩みは、魅力に変わる
これまで長年、悩みの種だと思っていたご自身の「軟毛」という髪質は、その特性を深く理解し、適切なカットを施すことで、他の髪質にはない、柔らかく優しい雰囲気を持ちながらも、しっかりと立体感のある、大変魅力的な髪型になり得るのです。整髪料に頼らず、ご自身の素晴らしい素材と、それを活かすカット技術で創り上げるスタイルこそ、本当の意味であなたらしい、自然な格好良さと言えるでしょう。お客様一人ひとりが持つ、その素晴らしい個性を、私たちの誠実な技術で最高の魅力に変えるお手伝いができれば、これに勝る喜びはございません。