「無造作ヘア」をノーセットで。究極の自然体を創り出す、髪型の美学
まるで朝、起きたままのような、どこか力の抜けた、気取らない雰囲気。しかし、なぜか清潔感があり、乱れているようでいて、不思議と全体の調和が取れている。男性の「無造作」な髪型が持つ、その捉えどころのない、しかし確かな魅力に、多くの人々が、無意識のうちに惹きつけられています。そして、その究極の姿こそが、特別な整髪をしない「ノーセット」の状態で、その計算され尽くした自然な魅力を、静かに、しかし力強く放っているスタイルと言えるでしょう。しかし、その一方で、「無造作」と、単なる「ボサボサ」との間には、目には見えない、しかし決定的な一線が存在します。今回は、整髪なしでも、その究極の無造作ヘアを創り出すための、考え方の秘訣についてお話しいたします。
「無造作」と「ボサボサ」を分ける、ただ一つのもの
まず、皆様が最もご心配されるであろう、この二つの違いについて、明確に定義させていただきたく存じます。その境界線を決めるのは、その髪に、揺るぎない「品格」があるかどうか、ただその一点に尽きます。「ボサボサ」な髪は、髪型全体のシルエットが崩れ、耳周りや襟足といった輪郭がぼやけ、そこには清潔感が感じられません。一方で、私たちが目指す、本当に美しい「無造作ヘア」は、髪の一本一本に、まるで意思があるかのような自由な動きがありながらも、髪型全体の美しいシルエットは、決して崩れることがありません。つまり、その無造作さの中に、確かな「計算」と、丁寧な「手入れの跡」が見えるのです。
計算された無造作を創る、カットの技術
整髪なしでも、この美しい無造作感を実現するためには、カットの段階で、いくつかの繊細な技術が用いられます。まず、お客様一人ひとりの骨格を、最も美しく見せる、揺るぎない髪型の「土台」となるシルエットを、丁寧に創り上げます。この、決して崩れることのない土台があるからこそ、その上で髪がどれだけ自由に動いたとしても、それは「崩れた」とは見えず、一つの魅力的な「表情」として映るのです。その上で、髪の内側から毛量を丁寧に取り除き、毛先に軽さを出すことで、髪と髪の間に、まるで空気が自由に出入りするかのような、自然な動きと束感が生まれやすい環境を、あらかじめ整えておきます。
髪質を活かす、という考え方
この「無造作ヘア」という考え方は、どのような髪質の方であっても、その魅力を楽しむことが可能です。例えば、ご自身の髪に、生まれつきのうねりやカール、いわゆる「くせ」がある方。その髪質は、最高の無造作感を創り出すための、他の誰にも真似のできない、かけがえのない素材です。その癖を、無理に抑え込むのではなく、そのまま活かすようにカットを施すことこそが、最も自然で、そしてお洒落なスタイルへの、何よりの近道となります。また、動きが出にくい直毛の方であっても、カットによる質感調整をより緻密に行ったり、あるいは、ごく弱いパーマを補助的にかけたりすることで、人工的ではない、柔らかな無造作感を、その髪に与えることができるのです。
ご自宅でできる、最も簡単な手入れ
カットによって創り出された、その計算された無造作感を、ご自宅で簡単に引き出すための、乾かし方のコツがございます。髪を乾かす際に、何か特別な技術は必要ありません。ドライヤーの風を、様々な方向から、髪の根元にたっぷりと送り込むようにして、少し乱暴なくらいに、自由に、そして無造作に乾かしてみてください。髪が完全に乾いたら、ご自身の手ぐしで、一度、髪全体をくしゃっと、優しく握るようにして整える。ただそれだけで、カットによって、あらかじめ髪の中に仕込まれていた、計算された無造作感が、ごく自然に、あなたのものとして再現されるはずです。
理容室で「無造作」という想いを伝えるには
理容室で、この少し曖昧で、繊細なニュアンスを持つ髪型を注文する際には、ぜひ、あなたのなりたい「雰囲気」を、言葉にしてお聞かせください。「きっちりと決めすぎるのではなく、無造作で、自然な感じの髪型が好きです」と。理想とする髪型の写真などをお見せいただきながら、「この写真の、頑張りすぎていない、このラフな感じが良いです」と、具体的なイメージを共有させていただくのも、大変良い方法です。その上で、「普段はあまり整髪をしないので、ノーセットでも、このような雰囲気になるようにしてください」と、最も大切なご要望を、ぜひ付け加えてください。
究極のお洒落は、究極の自然体にある
整髪をしない「ノーセット」で楽しむ、無造作ヘア。それは、一見すると、何もしていないかのように見えながら、その裏側には、お客様の個性という、かけがえのない素材を深く理解し、その魅力を最大限に引き出すための、理容師の緻密な計算と、誠実な技術が、静かに隠されています。無理に飾らない、ありのままの姿の中にこそ、その方が持つ、揺るぎない自信と、本当の品格が宿るのではないでしょうか。私たちは、お客様一人ひとりが持つ、最高の「自然体」を、最高の技術で創り出すお手伝いをさせていただきたいと、心から願っております。