毛染めが「染まらない」のはなぜ?誠実な理容師が解明する、原因と解決策
ご自身でヘアカラーに挑戦された際に、説明書に書かれている通りの時間を置いたにもかかわらず、全くと言っていいほど色が変わらなかった。あるいは、何度試してみても、理想としていた色合いには程遠い、中途半端な仕上がりにしかならない。そんな「染まらない」という、もどかしくも深刻なご経験に、深く悩んでいらっしゃる方も少なくないのではないでしょうか。髪が思うように染まらないのには、実は、お客様ご自身の髪質や、目には見えない髪の内部の状態、そして施術の工程など、いくつかの明確な理由が存在するのです。今回は、そのお悩みの原因を一つひとつ紐解き、解決への道筋について、私たちプロの視点から誠実にお話しさせていただきます。
原因1:生まれ持った「髪質」による影響
まず、多くの方が「自分の髪質のせいでは」とお考えになるように、生まれ持った髪の性質が、染まりやすさに大きく影響している場合がございます。例えば、一本一本がしっかりとして太く、硬い、いわゆる「剛毛」と呼ばれる髪質の方は、髪の表面を覆うキューティクルもまた、厚く、そして枚数が多い傾向にございます。この頑丈なキューティクルが、カラー剤が髪の内部へと浸透していくのを阻む、強固な「壁」となってしまい、染まりにくい原因となるのです。また、見た目には分からなくとも、髪が本来持つ黒の色素(メラニン)が非常に濃い方は、その黒を分解して明るくするためにより強い力が必要となり、一度のカラーリングでは、ご希望の色まで到達しにくい場合がございます。
原因2:施術の「工程」における見落とし
ご自身で染められる際に、意図せず陥ってしまいがちな、施術工程での見落としも、「染まらない」と感じる大きな原因の一つです。その代表的な例が、塗布する薬剤の量が、絶対的に不足しているケースです。特に髪の量が多い方や、長さのある方が、市販の薬剤を一箱だけで済ませようとすると、髪全体に薬剤が均一に行き渡らず、染まらない部分が生まれてしまいます。また、ヘアカラーの化学反応は、ある程度の温度があって初めて正常に進みます。冬場の寒い浴室などで染められると、薬剤の反応が鈍くなり、染まりが著しく悪くなってしまうこともございます。
原因3:過去の施術履歴という「目に見えない壁」
そして、プロの目から見て最も厄介で、かつお客様ご自身では気づきにくい原因が、過去の施術履歴、特に「黒染め」の染料が髪の内部に強く残留しているケースです。一度黒染めをされた髪は、その黒い色素がブリーチを使ってもなかなか抜けきらず、その上から新たな明るいカラー剤を重ねても、ほとんど色味を変えることができません。また、シリコン成分が多く配合されたシャンプーやトリートメントを日常的にお使いの場合、その強力なコーティング成分が、カラー剤の浸透を妨げる「目に見えない壁」となってしまっている可能性もございます。
「染まらない」髪に、プロはどう向き合うか
では、このような「染まらない」髪に対して、私たちプロはどのように向き合うのでしょうか。私たちの仕事は、まずお客様の髪を「知る」ことから始まります。丁寧なカウンセリングを通じて、これまでの施術履歴を詳しくお伺いし、実際に髪に触れ、その硬さや弾力、そしてダメージの度合いを指先で感じ取ります。そうして、「なぜ染まらないのか」という本当の原因を、無数の可能性の中から正確に突き止めるのです。そして、その原因に合わせて、浸透力の高い薬剤を選んだり、発色を助けるための特別な処理剤を加えたりと、プロならではの知識と経験を総動員して、お客様のためだけのオーダーメイドの薬剤と施術プランを組み立てます。
「染まらない」と諦める前に、ぜひ一度ご相談を
ヘアカラーが「染まらない」という結果には、必ずその背景に、科学的、そして物理的な「原因」が隠されております。そして、原因がある以上、そこには必ず解決策もまた存在するのです。その原因を正確に突き止め、無数にある選択肢の中から、あなたの髪にとって最善の一手を見つけ出すこと。それこそが、私たち髪の専門家である、誠実な理容師の使命です。ご自身で悩み、繰り返し失敗して大切な髪を傷めてしまう前に、ぜひ一度、そのお悩みを私たちに打ち明けてみてはいただけないでしょうか。「染まらない髪」などというものは、ございません。ただ、その髪に合った「正しい方法」を、まだご存知ないだけなのです。その答えを、私たちが必ず一緒に見つけ出します。