毛染めがすぐ抜けるのはなぜ?誠実な理容師が教える、色持ちが良い髪の育て方
理容室で丁寧に染め上げ、鏡の前で心から満足したはずの、理想の髪色。それなのに、ほんの数週間、早い方では数日でその鮮やかさが失われ、「自分の髪は、もしかしたらヘアカラーが抜けやすい髪質なのではないだろうか」と、がっかりされたご経験はございませんか。ヘアカラーが「すぐ抜ける」と感じてしまうのには、実は、お客様ご自身の現在の髪の状態や、日々のヘアケア習慣、そして私たち理容師が行う施術に至るまで、様々な要因が複雑に絡み合っているのです。今回は、その原因を一つひとつ紐解きながら、美しい髪色を一日でも長くお楽しみいただくための、根本的な考え方と具体的な対策について、詳しく解説させていただきます。
原因1:髪の「ダメージレベル」という土台の問題
お客様が感じられる色持ちの悪さ、その最も大きな原因となっているのが、現在の髪が負っている「ダメージのレベル」です。私たちはよく、髪を一本のコップに例えてご説明いたします。健康でダメージのない髪は、注がれた色素という名の水分を、その内部にたっぷりと、そして長く蓄えておくことができます。しかし、過去の度重なるカラーリングやブリーチ、あるいは日々のヘアアイロンのご使用などでダメージが蓄積した髪は、コップの表面に無数の細かい穴が空いているような状態です。これでは、せっかく注いだ色素も、その穴から次々と流れ出てしまい、色がすぐに抜けてしまうのは、ある意味で当然のことなのです。美しい色持ちは、まず何よりも、健康な髪という揺るぎない「土台」があってこそ実現できるのです。
原因2:「選んだ色」が持つ、色素の特性
実は、お選びになられた「色」そのものにも、抜けやすい色と、比較的長持ちする色という特性の違いがございます。一般的に、アッシュ、マット、あるいはピンクやレッドといった、寒色系や彩度の高い暖色系の繊細な色味は、その色素の粒子が比較的小さいという特徴がございます。そのため、髪の内部から流れ出しやすく、どうしても褪色が早い傾向にございます。これらの色は、その儚さも含めて非常に美しいものですが、色持ちの期間が短いという特性も併せ持っているのです。一方で、ナチュラルなブラウン系の色素は、粒子が比較的大きく、髪の内部構造にどっしりと留まりやすいため、色持ちが良い傾向にあります。
プロが実践する、色持ちを良くするための施術の工夫
「すぐ抜ける」というお悩みを解決するために、私たちプロは、施術の工程において、目には見えない様々な工夫を凝らしております。例えば、ダメージが進行した髪にカラーリングをさせていただく際には、まず、髪の内部で失われてしまったタンパク質などの栄養分を、カラーリングの前にあらかじめ補給いたします。これは、色素が髪の内部で定着するための、いわば「足場」を再建するような作業であり、色持ちを格段に向上させます。また、色が抜けやすいことが分かっている色味であっても、褪色していく過程までも美しく見えるように、あえて少しだけブラウンの色素を混ぜ込んだり、染めたては少し濃いめに発色するように計算して薬剤を調合したりもいたします。これらの専門的な判断と技術こそ、セルフカラーでは決して得られない、プロならではの価値なのです。
原因3:毎日の「ヘアケア習慣」の見直し
サロンでの専門的な施術と同じくらい、お客様の髪色の寿命を左右するのが、ご自宅にお帰りになられた後の、日々のヘアケア習慣です。洗浄力の強いシャンプーや、熱すぎるお湯での洗髪は、色落ちを促進させてしまう最大の原因となります。カラーリングされた髪には、洗浄成分が穏やかなカラーヘア専用のシャンプーを、ぬるま湯でお使いいただくのが基本です。そして、髪が濡れたままの状態で過ごす時間は、キューティクルが開き、色素が最も流出しやすい危険な時間帯です。お風呂から上がられた後は、一刻も早く、ドライヤーで髪を優しく、そして根本からしっかりと乾かすことを徹底してください。
「すぐ抜ける」髪から、「色が育つ」髪へ
ヘアカラーが「すぐ抜ける」というお悩みは、決して一つの原因だけで起こるものではございません。お客様の髪の素材、お選びになった色、サロンでの施術内容、そして日々のケア、これら全ての要素が密接に関わり合っております。私たち誠実な理容師の本当の仕事とは、単にその日だけ美しい色に染め上げることではありません。お客様の髪質を的確に診断し、最適な施術で色持ちの良い土台を創り、そしてご自宅での正しいケア方法をお伝えすることで、お客様と二人三脚で「色が美しく育っていく」健やかな髪へと導いていくことであると考えております。もし、あなたがご自身の髪の色持ちに悩み、諦めかけているのであれば、ぜひ一度、私たちにご相談ください。