毛染めの「成分」ご存知ですか?誠実な理容師が解説する、薬剤の知識と安全性
私たちが普段何気なく「ヘアカラー」と呼んでいるものは、実は、様々な化学的な「成分」が、それぞれに与えられた役割を果たし、精密なバランスで協力し合うことによって、初めてその美しい色を生み出すことができております。髪の色を自在に変化させるという、まるで魔法のような体験の裏側で、一体どのような成分が、どのような働きをしているのでしょうか。その仕組みを正しく知ることは、ご自身の髪と、そして身体の安全を守る上で、非常に重要なことでございます。今回は、少し専門的な内容とはなりますが、ヘアカラー剤の主な成分とその役割について、私たちプロとして誠実にお話しさせていただきます。
ヘアカラーの主役たち、主な有効成分とその役割
一般的なヘアカラー剤(酸化染毛剤)は、主に三つの有効成分が相互に作用することで、その効果を発揮いたします。まず一つ目が、髪の扉を開く「鍵」の役割を担う「アルカリ剤」です。この成分が、髪の表面を覆うキューティクルを穏やかにこじ開け、染料が髪の内部へと浸透していくための通り道を創り出します。
二つ目が、色そのものを生み出す「絵の具」の役割を持つ「酸化染料」です。この成分は、まだ色のない非常に小さな粒子の状態で髪の内部へと入り込み、次の成分と結びつくことで、初めてその鮮やかな色を発色いたします。
そして三つ目が、その発色を助ける「化学反応のパートナー」である「過酸化水素」です。酸化染料と結びついて色を発生させると同時に、髪が本来持つメラニン色素を分解(脱色)し、髪を明るくするという重要な働きも担っております。この三者が、絶妙なバランスで連携することで、ヘアカラーは成り立っているのです。
特に知っておくべき「ジアミン」という成分
ここで、お客様に特にご認識いただきたいのが、先ほどご説明した「酸化染料」の中に主成分として含まれることが多い、「ジアミン」と呼ばれる化学物質の存在です。正式にはパラフェニレンジアミンなどと呼ばれるこの成分は、少量でも髪を芯からしっかりと、そして深く濃い色に染め上げることができる、非常に優れた染料です。現在のヘアカラー技術において、なくてはならない存在と言っても過言ではございません。
しかしその一方で、このジアミンは、体質によってはアレルギー性接触皮膚炎を引き起こすアレルゲンとなる可能性が、他の成分に比べて高いという側面もございます。一度ジアミンアレルギーを発症されてしまいますと、多くの場合、今後この成分を含むヘアカラー剤で髪を染めることが困難になってしまいます。だからこそ、私たちプロフェッショナルは、施術の前にお客様の体調やアレルギー歴を必ず確認させていただき、ご不安な方には「パッチテスト」の実施を強くお勧めしているのです。
サロンの薬剤と市販品の成分、その違いは
では、私たちプロがサロンで扱う薬剤と、市販されている薬剤とでは、成分に違いはあるのでしょうか。基本的な染毛の仕組みや、主となる有効成分に大きな違いはございません。最も異なるのは、その「処方の自由度」と、髪をいたわる「補助成分」の質と量です。市販の製品は、どのような髪質の方でもある程度の結果が出るように、薬剤のパワーが比較的強めに設定されているのが一般的です。それに対し、サロンでは、お客様一人ひとりの髪質やダメージの度合いに合わせて、アルカリの強さや染料の種類を細かく調整できるよう、実に多様なラインナップの薬剤を取り揃えております。そして、髪のダメージを補修するトリートメント成分や、頭皮を刺激から守る保湿成分などが、より高品質で、より豊富に配合されているのも、プロ仕様の薬剤の大きな特徴です。
成分を熟知したプロに、あなたの髪を委ねるということ
ヘアカラー剤に含まれる成分は、髪を美しく彩るという素晴らしい力を持つと同時に、使い方を誤ればリスクも併せ持つ、いわば諸刃の剣のような存在です。本当に大切なのは、これらの成分一つひとつの化学的な特性を深く、そして正確に理解し、お客様の髪と頭皮にとって最も安全で、最も効果的な形でその力を引き出してあげること。それは、長年の経験と日々の学習に裏打ちされた、専門家である理容師にしかできない仕事であると、私たちは確信しております。薬剤の成分という、お客様の目には見えない部分にまで、絶対の責任とこだわりを持つこと。それこそが、私たちの誠実さの証なのです。