メンズ毛染めの基本。誠実な理容師が解説する、髪を染めるということ
ヘアカラーが、男性の皆様にとっても、ご自身の個性やファッション性を表現するための、ごく身近で重要な手段として定着いたしました。その一方で、手軽に挑戦できるようになったからこそ、「ヘアカラーとは一体どのような仕組みで髪が染まるのか」といった基本的な事柄については、意外とご存知ない方も多いのではないでしょうか。今回は、これからヘアカラーを始めたいとお考えの方、そして改めて基本を知りたいと願う全ての男性のために、「髪を染める」ということの基礎から、後悔しないための大切なポイントまで、専門家の視点から丁寧に解説させていただきます。
まずは知りたい、ヘアカラーの基本的な仕組み
皆様が普段「ヘアカラー」と呼ばれているものの多くは、髪が染まるまでにいくつかの科学的な工程を経ております。まず、一剤と二剤と呼ばれる二種類の薬剤を混ぜ合わせます。この薬剤を髪に塗布すると、一剤に含まれるアルカリ剤の力で、髪の表面を覆ううろこ状のキューティクルがゆっくりと開きます。そして、開いたキューティクルの隙間から、まだ色のついていない染料の素が髪の内部へと浸透していきます。髪の内部で、染料の素が二剤の成分と化学反応を起こすことで初めて色が生まれ、同時に分子のサイズが大きくなります。大きくなった色素は、キューティクルの隙間から外へ出られなくなることで、髪の内部に色が定着するのです。
目的によって異なる、ヘアカラーの種類
一口にヘアカラーと申しましても、その目的によって様々な種類がございます。髪全体の色を均一に染め上げる「全体カラー(フルカラー)」は、全体の印象を大きく変えたい場合に用いられる、最も基本的な施術です。一度染めた後、新しく生えてきた根元の黒い部分だけを、既に染まっている部分の色に合わせて染める技術は「リタッチカラー」と呼ばれ、髪全体のダメージを抑えながら美しい状態を維持するために行われます。また、髪の一部に明るい色や暗い色を筋状に入れる「ハイライト」や「ローライト」、髪の内側だけを染める「インナーカラー」といった技術は「デザインカラー」と総称され、より立体的で個性的なスタイルを創り出すことが可能です。
明るさの鍵を握る「ブリーチ」という選択
透明感のあるアッシュ系の色や、鮮やかな暖色系の色を楽しまれている方をご覧になったことがあるかと存じます。私たち日本人の髪が本来持つ黒い色素は非常に強く、通常のヘアカラー剤だけでは、表現できる色の明るさや鮮やかさに限界がございます。そこで重要な役割を果たすのが、「ブリーチ」と呼ばれる脱色剤です。これは髪に色を入れる「カラー」とは異なり、髪の色素そのものを抜くための施術です。髪への負担は伴いますが、この工程を経ることで、これまで不可能だった多彩な色の表現が可能になる、非常に重要な選択肢の一つです。
後悔しないカラーリングのために、心に留めておきたいこと
理想のヘアカラーを実現するために最も大切なのは、お客様と私たち理容師との間で、なりたいスタイルのイメージを正確に共有することです。もし可能であれば、雑誌の切り抜きやスマートフォンの画像など、具体的なイメージをお持ちいただくと、よりスムーズに理想を共有することができます。また、お客様の現在の髪や頭皮の健康状態によっては、ご希望の施術が難しい場合もございます。プロとして、お客様の髪の健康を第一に考え、無理な施術は行わないという判断をさせていただくことも、私たちの誠実な務めであると考えております。サロンでの仕上がりはゴールではなく、美しいスタイルを維持するためのスタート地点です。ご自宅での正しいケアが、その美しさを長く保つ秘訣となります。
信頼できるプロと共に、あなただけのヘアカラーを
ヘアカラーとは、単に髪に色を塗るという単純な作業ではございません。それは、化学的な知識と、お客様一人ひとりの髪質や状態を見極める専門的な診断、そしてそれを理想の形へと昇華させる緻密な技術が融合した、非常に奥深い世界なのです。だからこそ、安心して全てを任せられる、ご自身の髪と真摯に向き合ってくれる理容師というパートナーを見つけることこそが、後悔のない、最高のヘアカラーへの一番の近道であると、私たちは確信しております。