失敗しない「髪をすく」やり方。プロが教える、基本の3ステップと、その先の技術
ご自身の髪が少し重たくなったと感じた時、「この気になる部分だけ、自分で量を調整できたらな…」と、すきバサミを使ったセルフカットの「やり方」に、興味を持たれるお気持ち、とてもよく分かります。道具さえあれば、一見すると誰にでも簡単にできるように見える「髪をすく」という行為。しかし、その手軽さの裏側には、美しいヘアスタイルを創り出すための、いくつかの大切なルールと、知っておくべきリスクが隠されています。今回は、まずご自身で挑戦される際の、基本となる「やり方」を丁寧にご紹介し、さらに、私たちプロが、その先でどのようなことを考えているのか、その思考のプロセスまでをお話しさせていただきます。
まずは準備から。始める前に、知っておきたいこと
具体的な「やり方」をご説明する前に、何よりも大切な心構えと、準備についてお伝えさせてください。ご用意いただくのは、切れ味の良い「すきバサミ」と、髪を正確に分けるための「クリップ」、そして全体のバランスを確認するための「鏡」です。特に、ハサミの切れ味は、髪へのダメージや仕上がりの美しさを大きく左右します。そして、最も大切な心構え。それは**「焦らないこと」と「決してやりすぎないこと」**です。一度に完璧を目指さず、少しずつ、何度も鏡で確認しながら進める勇気が、大きな失敗を避けるための、最大のコツとなります。
基本のやり方3ステップと、プロの「視点」
それでは、基本的な「やり方」を、三つのステップに分けてご説明します。そして、それぞれの工程で、私たちプロが何を考え、どこに注目しているのか、その「視点」の違いにも触れていきましょう。
ステップ①:髪を乾かし、丁寧にブロッキングする
まず、髪を完全に乾かした状態で、すきたい部分と、今回は触らない部分を、クリップなどを使って正確に分け取ります。この地道な準備作業が、後の仕上がりを大きく左右します。
【プロの視点】:私たちプロは、このブロッキングの時点で、お客様一人ひとりの「骨格」を正確に読み解き、どこに重さを残せば頭の形が美しく見え、どの部分を軽くすべきかという、完成後の「設計図」を頭の中に描いています。
ステップ②:内側の髪を、中間から毛先へ
次に、表面の髪を傷つけないよう、内側の毛束を少量だけ指で引き出します。そして、その毛束の中間あたりから毛先に向かって、すきバサミを縦方向に、優しく入れます。一箇所に何度もハサミを入れるのではなく、少しずつ場所をずらしながら行うのがポイントです。
【プロの視点】:私たちは、お客様の「髪質」を指先で感じ取り、硬い髪には柔らかさを、柔らかい髪にはハリを与えるように、ハサミを入れる深さや角度を、ミリ単位で繊細に調整しています。
ステップ③:バランスを確認し、微調整する
少し梳いたら、一度クリップを外し、髪全体を下ろして、全体のシルエットや軽さの変化を確認します。もし、まだ重さが気になるようであれば、またステップ①から、この作業を慎重に繰り返します。
【プロとの違い】:私たちは、1ヶ月後、2ヶ月後に髪が伸びてきた時のことまでを「予測」しています。時間が経ってもスタイルが崩れにくいように、未来を見据えた、計算ずくの量の調整を行っているのです。
究極の方法は、「プロとの共同作業」
ここまで、ご自身でできる基本的な「やり方」についてお話ししてまいりましたが、究極的に失敗しない、最高の「髪をすく方法」。それは、お客様と、信頼できる私たち理容師との「共同作業」にほかなりません。お客様にしていただくのは、**「どこが、どのように気になっているか」**を、私たちにありのまま伝えていただくこと。そして、私たちプロが、そのお悩みを解決するための最適な「やり方(技術)」を選択し、責任を持って実行させていただくこと。この理想的な役割分担こそが、お客様の髪を、最も安全に、そして最も高いレベルの仕上がりへと導く、唯一無二の方法なのです。
もしもの時は、いつでも頼ってください
ご自身で挑戦された結果、もし少しだけうまくいかなかったとしても、決して落ち込まないでください。私たち誠実な理容師は、どんな状態からでも、必ず美しいスタイルへと修正させていただく「リカバリー」のプロでもあります。その挑戦のご経験は、次にサロンでオーダーされる際の、素晴らしいヒントにもなるはずです。
「髪をすく」基本的な「やり方」を知ることは、ご自身の髪と向き合う上で、とても有意義なことです。しかし、そのやり方の一つひとつの工程の裏側には、お客様一人ひとりのために考え抜かれた、プロの深い思考と、数えきれないほどの経験が隠されています。あなたの魅力を最大限に引き出す、その見えない技術の価値を、ぜひ一度、私たちのサロンでご体験いただければ、これほど嬉しいことはございません。