なぜ髪をすくと薄く見えるのか?プロが教える「重さを残す」デザイン術
ヘアスタイル全体のボリュームを抑え、軽やかで動きのある印象を創り出すために行われる「髪をすく」という施術。しかし、その仕上がりに、どこか違和感を覚え、「なんだか以前よりも髪全体が薄く見えてしまう…」と感じてしまった、そんなほろ苦いご経験をお持ちではないでしょうか。その感覚は、決して気のせいなどではございません。事実、一歩間違った「すき方」は、お客様の髪を意図せず薄く見せてしまう、直接的な原因となり得るのです。今回は、なぜそのような現象が起きてしまうのか、そして髪の豊かさを保ちながら理想の軽さを手に入れるための、私たちプロフェッショナルの技術について、詳しく解説してまいります。
髪が「薄く見える」原因は、表面の髪の減少にあり
まず、ご理解いただきたいのは、ヘアスタイル全体のツヤや、髪が豊かであるという印象は、主にその「表面を覆っている長い髪」によって創り出されている、という事実です。髪が「薄く見えてしまう」という失敗のほとんどは、この最も重要であるはずの表面の髪まで、内側の髪と一緒に無計画にすいてしまうことに起因します。表面の髪の密度が低くなることで、内側の短い髪や地肌が透けて見えたり、光が均一に反射せず、髪全体のツヤが失われてパサついて見えたりしてしまうのです。
プロは「内側の重さ」を緻密にコントロールする
では、私たちプロは、お客様の髪を薄く見せることなく、どのようにして理想の軽さを実現しているのでしょうか。その答えは、髪の「内側」に対する、緻密なアプローチにあります。
表面の髪は「蓋」として大切に残す
私たちは、髪本来のツヤと豊かな見た目を守るため、原則として、スタイルの一番外側を覆う表面の髪は、大切な「蓋」のように、梳かずに残します。この「蓋」があることで、内側をどれだけ調整しても、仕上がりの美しさが損なわれることはありません。
ボリュームの原因となる「内側」だけを狙う
お客様の骨格や髪の生え方を見極め、ボリュームの直接的な原因となっている髪の「内側」の、さらに本当に不要な部分だけを、まるで精密な外科手術のように的確に、そして丁寧に取り除いていきます。これにより、見た目の長さを一切変えることなく、全体のボリュームだけをスマートにコントロールすることが可能になるのです。
必要な「重さ」は、あえて残す
意外に思われるかもしれませんが、髪を豊かに、そしてスタイリングしやすくするためには、ある程度の「重さ」が必要です。特に、ふんわりとしたボリュームが欲しいトップの部分などは、あえて梳かずに重さを残すことで、髪の毛同士が互いに支え合い、力強い立ち上がりが生まれます。この「残す勇気」と、そのための的確な判断力こそが、プロフェッショナルの技術なのです。
「薄く見えないように」を伝えるオーダーの言葉
もし、ご自身のイメージを私たちに伝える際は、ぜひ過去のご経験やご不安を、正直にお話しください。「以前、他のサロンで梳かれすぎて薄く見えてしまったのが少し心配で」といった一言を添えていただくだけで、私たちはそのお気持ちを深く理解し、より慎重に、そして的確に施術を進めることができます。また、「サイドの膨らみは抑えたいけれど、トップのボリューム感は絶対に失いたくない」といったように、守りたい部分を明確に伝えていただくことも、非常に有効なオーダー方法です。
あなたの髪の「豊かさ」を守るのが、私たちの使命です
私たち誠実な理容師の使命は、お客様の髪を、その瞬間だけでなく、5年後、10年後も、豊かで健やかな状態に保つためのお手伝いをさせていただくことです。そのため、目先の軽さのためだけに、お客様の髪が持つ本来の美しさや密度を犠牲にするような仕事は、決して行いません。
「梳く」とは、単に髪を「減らす」という引き算の作業ではありません。どこに「重さを残す」かという、足し算の発想を大切にすること。そんな、あなたの髪の豊かさを守り育てるプロの技術を、ぜひ一度ご体験ください。