「髪をすく」と抜け毛が増えるは誤解?プロが解説する、髪の健康と毛量調整の真実
ご自身の抜け毛が、少しずつ気になり始めている。そんな繊細な時期に、「髪をすく」という、髪の量を減らすための行為が、その悩みをさらに深刻化させてしまうのではないか。ヘアサロンの椅子の上で、そんな不安が心の片隅をよぎったご経験はございませんか。ご自身の髪を、誰よりも大切に想うからこそ生まれるそのご心配、私たちプロの理容師として、非常によく理解できます。今回は、その不安の正体を科学的な視点から解き明かし、お客様が心から安心してヘアスタイルを楽しむための、正しい知識を誠実にお伝えしてまいります。
【結論】プロの正しい「梳き」が、抜け毛を増やすことはありません
まず、この記事の最も重要な結論から、はっきりと申し上げます。私たちプロの理容師が、適切な道具と正しい技術を用いて行う「髪を梳く」という行為が、髪の毛の成長サイクルを乱し、本来の寿命よりも早く髪が抜けてしまう「抜け毛」を、直接的に増やす原因となることは、医学的にも考えられません。髪の毛は、頭皮の奥深くにある毛根という組織で作られ、一定の成長サイクル(ヘアサイクル)を経て、自然に抜け落ち、また新しく生え変わることを繰り返しています。私たちがハサミでカットしているのは、あくまで皮膚の上に出ている「毛幹」と呼ばれる部分であり、その奥にある毛根の活動に、直接的な影響を及ぼすものではないのです。
では、なぜ「抜け毛が増えた」と感じてしまうのか?
しかし、そうは言っても、実際に「髪をすいた後、抜け毛が増えたように感じる」というお客様がいらっしゃるのも事実です。その感覚は、一体どこから生まれるのでしょうか。
① 短くなった「切れ毛」との混同
これが、お客様が「抜け毛が増えた」と感じてしまう、最も大きな原因です。以前の記事でも触れさせていただきましたが、切れ味の悪いハサミや、乱暴な施術によって髪がダメージを受けると、毛の途中からプツッと切れてしまう「切れ毛」が発生します。この、本来抜けるべきではなかった短い「切れ毛」が、シャンプーの際やお部屋の床に落ちているのを見て、「抜け毛が増えてしまった」と錯覚してしまうケースが非常に多いのです。
② カットされた短い毛の見え方
散髪の後は、当然のことながら、カットされたたくさんの短い毛が発生します。それらがシャンプーなどで洗い流される様子を見て、「こんなにも大量に髪が抜けてしまった」と、ご自身の抜け毛と勘違いしてしまうこともございます。
抜け毛を防ぐのではなく、「切れ毛」を防ぐのがプロの仕事
つまり、私たち誠実な理容師が「髪を梳く」際に、神経を研ぎ澄ませて最も心を砕いているのは、「抜け毛を増やさない」ことはもちろんのこと、お客様に抜け毛と錯覚させてしまう最大の原因である「切れ毛」を、ただの一本たりとも作らない、ということなのです。そのために、私たちは日々のハサミのメンテナンスを片時も怠らず、常に最高の切れ味を保ちます。そして、お客様の髪の流れに決して逆らうことのない、どこまでも優しく、そして滑らかなタッチで、髪に一切の不要な負担をかけない施術を、徹底して心掛けています。
抜け毛が気になる時の、心構えとオーダー
もし、お客様がご自身の抜け毛について、本当に深刻にお悩みでいらっしゃる場合は、まず私たち理容師ではなく、専門の医療機関にご相談されることを、誠意をもってお勧めいたします。その上で、ヘアスタイルに関するご相談として、私たちに「抜け毛が気になっているので、できるだけ頭皮や髪に負担のないようにカットしてほしい」「トップのボリュームが、より豊かに見えるようなスタイルにしてほしい」といったご要望を、どうぞご遠慮なくお聞かせください。私たちは、そのお悩みをデザインの力でカバーするための、最善のヘアスタイルを、お客様と一緒になって考えさせていただきます。
「髪を梳く」という行為と、「抜け毛」との間に、直接的な因果関係はございません。お客様が抱える髪に関するあらゆる不安に対し、私たちは科学的な根拠と、長年の経験、そして何よりも誠実な心をもって向き合います。根拠のない情報に惑わされることなく、安心してご自身のヘアスタイルを楽しんでいただくこと。それこそが、私たちの最大の願いなのです。