プロはこう切る。「髪をすく」を極める、多彩な切り方の世界
バーバーサロン(理容室)の鏡の前で、理容師がリズミカルにハサミを動かし、お客様の髪を軽やかに整えていく。その一連の動作は、傍から見れば、流れるような一つの「切り方」に見えるかもしれません。しかし、その手の中では、お客様の髪質や創り出したいデザインの目的に応じて、実に多彩で、そして計算され尽くした専門的な「切り方」が、瞬時に選択され、実行されているのです。今回は、普段お客様が目にすることのない、「髪をすく」ための奥深い技術の世界へ、その扉を少しだけ開けてみましょう。
基本の切り方:すきバサミ(セニング)の正しい使い方
「髪をすく」と聞いて、多くの方が思い浮かべるのが、櫛のようなギザギザの刃がついた「すきバサミ(セニングシザー)」でしょう。この道具は、単に髪の量を減らすためだけのものではありません。ハサミを入れる角度、開閉させる回数、そして髪から引き抜くタイミング。これら全てを緻密にコントロールすることで、仕上がりの質感は全く異なったものになります。プロの理容師は、毛束に対してハサミを縦や斜め方向に滑らせるように入れることで、カットした部分が不自然な線として残らないよう、周囲の髪と滑らかにぼかしながら量を調整していきます。
動きと質感を操る、ハサミを使った高度な切り方
時には、すきバサミを一切使わずに、私たちが普段使う通常のハサミだけで、髪をすいていくこともございます。それらは、より高度で、デザイン性を高めるための特別な「切り方」です。
スライドカット
ハサミの刃を少しだけ開いた状態で、毛束の表面を優しく滑らせるようにして毛量を調整する技術です。髪の長さをほとんど変えることなく、硬い髪に柔らかさを与えたり、毛流れを整えたりするのに非常に有効で、髪の断面を傷つけにくい繊細な切り方です。
チョップカット
毛束の先端に対し、ハサミを縦方向に、まるで刻むように入れていく技術です。これにより、毛先が自然に不揃いになり、ワックスなどをつけた際に、作り込みすぎていない、ラフで動きのある束感が生まれやすくなります。
なぜ、プロは「切り方」を使い分けるのか
私たちが、このように多彩な「切り方」を状況に応じて使い分けるのは、お客様一人ひとりが持つ、世界に一つだけの「素材(髪質や骨格)」と、お客様が心の中に描く「理想のデザイン」、その二つの要素を完璧に両立させるためです。例えば、くせ毛で広がりやすい髪質の方には、動きが出過ぎないように慎重に量を調整し、逆に、硬い直毛で動きが出にくい方には、柔らかさを表現するためにスライドカットを多用する、といった具合です。誠実な理容師は、持ちうる全ての技術の引き出しの中から、目の前のお客様にとって最もダメージが少なく、かつ最も効果的な方法を、常に考え、選択しているのです。
「どう切るか」は、私たちプロにお任せください
様々な専門的な「切り方」をご紹介しましたが、お客様がこれらの技術をすべてご理解いただき、オーダーの際に指定していただく必要は全くございません。お客様にお願いしたいのは、ただ一つ。「どのようになりたいか」という、あなたの理想のイメージを、私たちに伝えていただくことです。その理想を叶えるための最適な「切り方」を選択し、寸分の狂いなく実行すること。それこそが、私たちプロフェッショナルの仕事であり、何よりの喜びなのです。
「髪をすく」というシンプルな言葉の裏側には、お客様を最高に輝かせるための、多彩で奥深い「切り方」の世界が広がっています。その引き出しの多さと、最適な一つを選択する的確な判断力こそが、信頼できる理容師の証です。ぜひ一度、私たちのサロンで、計算され尽くした本物のカット技術をご体験ください。