「髪をすく」ハサミの秘密。プロが使い分ける、道具と技術の奥深い世界
バーバーサロン(理容室)で、私たち理容師が巧みに持ち替える、様々な形をしたハサミたち。その中でも、櫛(くし)のようなギザギザの刃を持つ、ひときわ特徴的なハサミに、皆様もきっと目を留められたことがおありでしょう。そのハサミこそが、「髪をすく」ために生み出された専門の道具です。しかし、私たちプロは、それ一種類だけで、お客様の髪の毛量を調整しているわけではございません。今回は、お客様の理想のヘアスタイルを形にするために、私たちがどのようにハサミを選び、そして使い分けているのか、そのこだわりの一端をご紹介させていただきます。
基本の道具:すきバサミ(セニングシザー)とその役割
一般的に「すきバサミ」として知られる道具の正式名称を、私たちは「セニングシザー」と呼びます。このハサミの最大の特徴は、一度で梳ける髪の量、すなわち「カット率」が、製品によって様々に設計されている点にあります。例えば、一度ハサミを入れることで、その毛束の15%程度の量が減るものから、中には50%以上の量を一気に減らすことができる、非常にパワフルなものまで存在します。髪の量が多くてお悩みのお客様にはカット率の高いものを、毛先の繊細な質感調整にはカット率の低いものを、といったように、お客様の髪質やデザインの目的に応じて、私たちは常に最適な一本を選び抜いているのです。
もう一つの選択肢:通常のハサミ(ブラントシザー)で梳く技術
実は、私たちプロは、皆様が普段よく目にされる、両方の刃がまっすぐな「通常のハサミ(ブラントシザー)」を使っても、髪を梳くことができます。例えば、ハサミの刃を少し開いた状態で、毛束の表面を優しく滑らせるようにして質感を調整する「スライドカット」や、毛束の先端に対して、ハサミを縦方向に刻むように入れていく「チョップカット」といった高度な技法です。セニングシザーが「面」として広範囲の毛量を効率的に減らすのに対し、通常のハサミでの梳きは、より「線」や「点」として、ピンポイントで繊細な質感や動きをコントロールするのに適しています。
ハサミの「切れ味」が、すべてを左右する
どちらの種類のハサミを使うにせよ、その施術の質を最終的に決定づける最も重要な要素は、そのハサミの「切れ味」です。切れ味の鈍いハサミは、髪をスパッと「切断」するのではなく、髪の組織を押し潰したり、引きちぎったりしてしまいます。これこそが、皆様が懸念される「枝毛」や「切れ毛」といった、深刻なヘアダメージを引き起こす、最大の原因となるのです。誠実な理容師が、日々のハサミの手入れを、まるで自身の命のように大切にするのは、お客様の大切な髪を、決して傷つけることがないように、というプロとしての最低限の、そして絶対的な責任感の表れにほかなりません。
最高のハサミを選ぶのは、あなたの「なりたい」想い
お客様が、これらのハサミの種類や、専門的な技術名を、すべて覚えていただく必要は全くございません。私たちが、数ある選択肢の中から、どのハサミを手に取るかを最終的に決めるのは、他の誰でもない、お客様ご自身の「こうなりたい」という、切実な想いです。「髪の量を減らして、とにかく扱いやすくしたい」「毛先に、風に揺れるような柔らかな動きが欲しい」「髪へのダメージが気になるので、できるだけ優しく調整してほしい」。お客様のその一つひとつの言葉を道しるべに、私たちは、最高の道具と、最高の技術を選び抜きます。
「髪をすく」という、シンプルに見える行為の裏側には、目的によって使い分けられる多彩なハサミと、それを正確に操る理容師の深い知識、そしてお客様の髪への尽きない愛情が存在します。道具へのこだわりは、お客様へのこだわりの証です。一本のハサミにまで魂を込める、プロフェッショナルの仕事を、ぜひ一度、私たちのサロンでご体験ください。