髪を梳くと「はねる」のはなぜ?プロが教える、重さを味方につけるカット術
ヘアサロンで髪を梳いてもらい、念願の軽やかさを手に入れたはずが、数日後、なぜか以前よりも襟足やサイドの髪がまとまりなく「はねる」ようになってしまった…。そんな、予期せぬ残念な結果に、毎朝鏡の前でため息をついていらっしゃる方も、少なくないのではないでしょうか。その忌々しい「はね」は、決してあなたの髪質や寝癖のせいだけではございません。それは、髪が本来持つ「重さのバランス」が、不適切に変化してしまったことによって起こる、れっきとした物理的な現象なのです。
髪が「はねる」メカニズム。それは“重しの消失”
まず、ご理解いただきたいのは、私たちの髪の毛には、それぞれ生まれ持った「生え癖」があり、本来は様々な方向に向かって生えようとする、秘めた力を持っているという点です。健康で、美しくまとまっているヘアスタイルでは、髪の表面にある程度長く、そして重さのある髪が、まるで「文鎮」のように、その下に隠れている髪が不必要に浮き上がったり、外側にはねたりするのを、その重みで優しく抑え込んでくれています。しかし、この最も重要であるはずの「文鎮」の役割を持つ表面近くの髪を、無計画に、そして過度に梳いて軽くしてしまうと、どうなるでしょうか。抑えが効かなくなった内側の髪は、本来持っていた生え癖のままに、元気よく、そして自由奔放に外側にはねてしまうのです。これこそが、「髪を梳いたら、かえってハネるようになった」という現象の、最も大きな原因なのです。
プロは「はねさせない」ために、どこをすくのか
では、私たちプロの理容師は、お客様の髪を「はねさせない」ために、一体どこを、そしてどのように梳いているのでしょうか。その答えは、先ほどの「重しの原理」を、逆に応用することにあります。襟足やもみあげ、あるいは肩につく長さの毛先といった、物理的に「はねやすい」ことがあらかじめ予測される部分の表面の髪は、スタイル全体のまとまりを生み出すための、かけがえのない「重し」として、あえて梳かずに、大切に残します。そして、ヘアスタイル全体の重さや、野暮ったさの原因となっている、髪の「内側」の、しかも「はねる心配のない」部分だけを的確に見極め、そこだけを丁寧に取り除いていくのです。
もし髪がはねてしまった時の、オーダーと対処法
もし、ご自身の髪の「はね」にお悩みでしたら、ぜひ次回のオーダーの際に、そのお悩みを私たちに正直にお聞かせください。「襟足がいつもはねてしまうのが悩みです」といった、お客様からのその一言が、失敗を未然に防ぐための、最も重要なコミュニケーションとなります。また、もしご自宅ではねてしまった髪を直したい場合は、毛先だけを濡らして直そうとしても、あまり効果はございません。はねの根本的な原因は「根元の生え癖」にありますので、一度、その部分の根元からしっかりと髪を濡らし、髪を少しだけ優しく引っ張りながら、ドライヤーの風を上から下へと当てて乾かしていただくのが、最も効果的な応急処置です。
誠実な理容師は、あなたの髪の「数週間後」を予測する
私たち誠実な理容師の仕事は、お客様がサロンの扉を出て行かれる、その瞬間の仕上がりが美しいことだけでは、決して完結いたしません。お客様の髪が、1週間後、2週間後、そして1ヶ月後に、どのように伸び、どのようにまとまり、そしてどの部分が「はねて」くる可能性があるか。その髪の未来までをも、長年の経験から予測し、その時でさえも扱いやすいように、逆算してハサミを入れること。それこそが、お客様の毎日の快適さにまで責任を持つ、プロフェッショナルとしての私たちの誠実さなのです。
「髪を梳く」ことで「はねる」というお悩みは、髪の重さのバランスを深く理解した、プロの緻密な技術によって、完全にコントロールすることが可能です。もう、毎朝言うことを聞かない毛先と、格闘する必要はございません。あなたの髪が持つ、本来の素直で美しいポテンシャルを引き出す、物理法則に基づいたカット技術を、ぜひ一度私たちのサロンでご体験ください。