【接客業の傾聴力】お客様の「本当の想い」を聴き出す、プロの技術
「話が上手い人」が、必ずしも「コミュニケーション能力が高い人」とは限りません。接客業のプロフェッショナルにとって、最も重要なコミュニケーション能力。それは、自分が話すことよりも、お客様の言葉に深く耳を傾ける「傾聴力」です。
お客様が言葉にする、表面的な要望の、さらに奥にある、言葉にならない「本当の想い」を聴き出すこと。
その真摯な姿勢こそが、お客様との間に揺るぎない信頼関係を築き、マニュアルを超えた感動的なサービスを生み出します。今回は、その「傾聴力」の本質と、明日から実践できる具体的なテクニックについて解説します。
「聞く」と「聴く」の決定的な違い
日本語には、同じ「きく」という音の言葉が二つあります。
- 聞く(hear)
意識せずとも、自然と耳に入ってくる音を「きく」ことです。
- 聴く(listen)
耳だけでなく、目や、時には心を使い、相手が本当に伝えたいことは何かを、注意深く、能動的に「きく」ことです。
私たちが接客業で目指すべきは、もちろん後者の「聴く」です。お客様の言葉をただの音として処理するのではなく、その背景にある感情や状況までを理解しようと努める姿勢が、傾聴の第一歩となります。
傾聴力を高めるための3つの基本姿勢
効果的な傾聴は、テクニック以前に、まず基本となる「姿勢」が重要です。
- 1.相手への「関心」
目の前のお客様が、どんな方で、何に興味があり、何を大切にしているのか。相手自身に、純粋な好奇心と関心を持つことが、全ての始まりです。
- 2.「受容」と「共感」
たとえ自分とは違う意見であっても、まずは「そういう考え方もあるのですね」と、否定せずに一旦受け入れる(受容)。そして、「それは、お困りでしたね」と、相手の感情に寄り添う(共感)。この姿勢が、お客様の心の扉を開きます。
- 3.「最後まで聴く」という忍耐
相手の話を途中で遮り、「つまり、こういうことですよね?」と、自分の解釈を押し付けてはいけません。たとえ話が長くなっても、相手が話し終えるまで、辛抱強く聴き切る姿勢が、信頼感に繋がります。
明日から使える、傾聴の具体的なテクニック
上記の姿勢を土台とした上で、会話をより豊かにするための具体的なテクニックをご紹介します。
- 相槌(あいづち)
「はい」「ええ」「なるほど」「さようでございますか」といった、適切な相槌は、「あなたの話を、きちんと聴いていますよ」というサインになります。
- 反復(オウム返し)
お客様が発した「キーワード」を、そのまま繰り返す技術です。「朝のセットが大変で…」→「朝のセットが、大変でいらっしゃるのですね」と繰り返すことで、お客様は「ちゃんと伝わっている」と安心感を覚えます。
- 要約(パラフレーズ)
お客様の話が一段落したところで、「もし、よろしければ、〇〇ということでお間違いないでしょうか」と、自分の言葉で要約して確認します。これにより、認識のズレを防ぎ、話の論点を整理することができます。
- 質問(オープンクエスチョン)
「はい/いいえ」で終わってしまう質問(クローズドクエスチョン)だけでなく、「〇〇について、もう少し詳しくお聞かせいただけますか?」といった、相手が自由に話せる質問(オープンクエスチョン)を投げかけることで、より深いニーズを引き出せます。
【私たちの仕事から】最高の髪型は、最高の「傾聴」から
私たち理容師の仕事は、まさに「傾聴」から始まります。
お客様の「少し短く」という一言の裏には、「朝のセットを楽にしたい」「清潔に見せたい」「ボリュームが出なくて困っている」といった、千差万別の「本当の想い」が隠されています。
それを丁寧に、様々なテクニックを駆使して聴き出し、専門家として最高の解決策(ヘアスタイル)をご提案すること。それこそが、私たちの仕事の本質です。
最高の信頼は、最高の「聴き手」に集まる
お客様は、自分のことを深く理解してくれようとする、真摯な「聴き手」を求めています。そして、そんな最高の聴き手に対して、人は心からの信頼を寄せるのです。
当サロンは、お客様一人ひとりにとっての「最高の聴き手」でありたいと、心から願っています。
あなたの言葉にならない想いを、ぜひ一度、私たちに聴かせてください。