【プロの道具箱】フェードカットは“ブラシ”で変わる。その役割と、正しい使い方
シャープなフェードカット。
その完璧なスタイルは、バリカンやハサミといった、主役級の道具たちの活躍によって創り上げられている。そう、思っていませんか?
しかし、実はその裏側で、仕上がりを別次元へと引き上げる、地味ながらも極めて重要な“名脇役”が存在します。それが、**「ブラシ」**です。
「セットの時に使う、あの丸いブラシ?」
「カットの最後に、首の毛を払ってくれる、あのフワフワのブラシのこと?」
そのどちらも、正解です。
あなたがイメージする「ブラシ」が、私たちプロの世界では、それぞれ全く異なる、しかし、どちらも欠かすことのできない重要な役割を持ち、あなたのスタイルを、より完璧なものへと導いているのです。
この記事では、フェードカットに欠かせない、2種類の「ブラシ」の奥深い世界へと、あなたをご案内します。
その1:【スタイリング用】ブラシが創り出す、流麗な“毛流れ”と“立体感”
まず一つ目は、ヘアセットの際に、ドライヤーと共に使う「スタイリングブラシ」です。
コーム(櫛)が、髪の「面」を整えるのを得意とするのに対し、ブラシは、髪の根元をしっかりと捉え、ドライヤーの熱を加えながら、「立ち上がり」や「丸み」、「しなやかな毛流れ」を創り出すことを得意とします。
- デンマンブラシ半円状の形状が特徴で、髪の根元にテンション(張り)をかけやすく、ドライヤーの風を効率的に送ることができます。サイドの髪をビシッと後ろに流すサイドパートや、トップに自然なボリュームを出したい時に、絶大な効果を発揮します。
- ロールブラシ円筒形のブラシで、クラシックなバーバースタイルの象徴でもある、**リーゼントのポンパドール(フロントの立ち上がり)**のように、髪に大きな丸みと、美しいツヤを与えたい時に不可欠です。パーマヘアのカールを、綺麗に整えながら乾かす際にも使用します。
手やコームだけでは決して創り出すことのできない、プロならではの立体的で、流麗なシルエットは、このスタイリングブラシを、ドライヤーと完璧に連動させて操る、熟練の技術によって生み出されているのです。
その2:【仕上げ用】ブラシがもたらす、究極の“清潔感”と“完璧さ”
二つ目は、カットの工程や、その最後に使われる「仕上げ用のブラシ」です。一見、ただ切った髪を払っているだけのように見えますが、ここにもプロの深いこだわりが隠されています。
- フェードブラシこれは、私たち理容師が、フェードカットの施術中に使う専門的なブラシです。刈り上げた部分に付着した、非常に細かい髪の毛を、施術の途中で何度も払い落とすために使用します。なぜなら、切り屑が残ったままでは、ミリ単位で創り上げるグラデーションの、僅かなムラや繋がりを、正確に確認することができないからです。完璧なフェードは、完璧なクリーン状態からしか生まれません。
- ネックブラシそして、カットの最後に、首周りや顔、襟元についた全ての毛を、優しく、しかし完全に取り除くのが、このネックブラシです。素材や毛の柔らかさにまでこだわったブラシで、お客様がサロンを出た瞬間に、一切の不快感なく、最高の気分で街を歩けるようにするための、私たちの「おもてなし」の心の現れです。
たかがブラシ、されどブラシ。道具へのこだわりが、技術の差になる
ここまでお読みいただいて、お分かりいただけたかと思います。
「ブラシ」という、たった一つの道具にも、様々な種類と、それを120%使いこなすための、専門的な知識と技術が存在します。
私たちプロの理容師は、
- お客様の髪質や、創りたいスタイルに合わせて、数十種類の中から、その日、その瞬間に最適な一本のブラシを選び出し、
- ドライヤーの熱と風を完璧にコントロールしながら、ブラシと連動させ、時には髪の生えグセさえも矯正し、
- お客様の肌のことを第一に考え、最高に心地よい肌触りの仕上げ用ブラシを厳選する。
このような、主役ではない道具一つひとつへの、深く、そして執拗なまでのこだわりこそが、最終的な仕上がりに、素人には決して真似のできない「プロの領域」を生み出しているのです。
まとめ
フェードカットの世界において、「ブラシ」は、
スタイリングで**“立体感”と“生命感”を吹き込み、
仕上げで“清潔感”と“完璧さ”**を極める、
二つの、極めて重要な役割を担っています。
私たちの仕事は、お客様の目に見えない部分にこそ、宿ります。
ぜひ一度、本物のプロが振るう“ブラシ”の仕事を、あなたの髪で、そして、あなたの肌で、感じてみてください。その違いに、きっと驚かれるはずです。