「フェザーアップ」をノーセットで。風をはらむ、軽やかな前髪の創り方
前髪を潔く上げ、ご自身の額を見せることで生まれる、清潔感と自信に満ちた、凛々しい表情。その爽やかな「アップバング」と呼ばれるスタイルに、まるで鳥の羽根のように、ふわりとした、どこまでも軽やかで柔らかい質感を加えたのが、「フェザーアップ」です。その、計算され尽くした、しかし決して作り込みすぎることのない魅力的な髪型も、「毎日、整髪料で固めなければ、すぐに前髪が落ちてきてしまう」と、多くの方がお考えではないでしょうか。しかし、カットの段階で、髪がごく自然に立ち上がるための、目には見えない「仕掛け」を施し、日々の髪の乾かし方をほんの少しだけ工夫することで、整髪をしない「ノーセット」の状態でも、この軽快なスタイルを楽しむことが可能になるのです。
フェザーアップとは、どのような髪型か
まず、「フェザーアップ」という髪型が、どのような特徴を持っているのかを、ご説明いたします。それは、ご自身の前髪を、根元の部分からふんわりと優しく立ち上げ、その毛先にかけては、あえて力を抜き、軽やかに横に流したり、あるいは無造作に散らしたりするスタイルのことです。従来の、きっちりと固められたアップバングとは異なり、作り込みすぎない、程よい「抜け感」と、まるで羽根のような「軽やかな質感」を大切にするのが、その最大の特徴と言えるでしょう。
前髪を「立ち上がらせる」ための、カットの設計図
この、まるで重力から解放されたかのような軽やかな前髪を、整髪なしで実現するためには、カットの段階で、極めて緻密な「設計図」を描く必要がございます。まず、お客様一人ひとりの髪質、特にその硬さや生え癖を丁寧に見極め、髪が自身の力で、最も自然に立ち上がることができる「最適な長さ」に設定します。髪は、長すぎるとその重さで寝てしまい、短すぎても、そもそも立ち上がることができません。この繊細な見極めが、まず何よりも重要です。その上で、前髪の根元部分の毛量を、外からは見えないように、繊細な技術で取り除きます。これにより、髪が密集して重さで寝てしまうのを防ぎ、根元が立ち上がるための、いわば「空間」を創り出すのです。
究極の鍵は、日々の「乾かし方」にあり
カットによって創られた「立ち上がりやすい土台」を、ご自宅で最大限に活かし、そして一日を通して保つための、最も重要な鍵。それは、日々の「髪の乾かし方」にあります。まず、髪を乾かす際に、前髪を一度すべて顔の前に下ろした状態で、分け目とは逆の方向からなど、様々な方向から根元にドライヤーの風を当て、癖を取りながら、根元を完全に乾かします。次に、ご自身の手で、前髪を立ち上げたい方向に向かって優しく持ち上げ、その根元の部分に、ドライヤーの温かい風を、数秒間、集中的に当ててみてください。そして、ここからが最も大切な工程です。温めた後、すぐにドライヤーを冷たい風に切り替え、同じように根元に風を当てて、立ち上がったその形を、髪に「記憶」させるのです。この「温めて、冷やす」という簡単な工程こそが、整髪料に頼らない、自然な立ち上がりを創り出すための、最大の秘訣です。
より確実な立ち上がりを求めるなら
もし、ご自身の髪質が、非常に柔らかい、あるいは、どうしても下に向かって生える癖が強い、という場合には、補助的な選択肢として、ごく弱いパーマをかける、という方法もございます。それは、髪全体にカールをつけるためのものではなく、あくまで前髪の根元部分だけに、立ち上がりのための「土台」を創ってあげるための、非常に賢明な選択です。
理容室で、この繊細な要望を伝えるには
理容室で、この少し難易度の高い髪型を注文する際には、ぜひ、あなたのなりたい「雰囲気」や「質感」を、言葉にしてお聞かせください。「前髪を上げたいのですが、ガチガチに固めるのではなく、羽根のように軽やかで、自然な感じにしたいです」と。その上で、「普段は整髪をしないので、ノーセットでも、乾かすだけでこの雰囲気を再現できるようにしてほしいです」という、最も重要なご要望を、ぜひ付け加えてください。その難しいご要望にこそ、私たち理容師の本当の技術力と、お客様への深い理解力が試されるのです。
計算された髪型が、あなたの表情を輝かせる
整髪をしない「ノーセット」で楽しむ、フェザーアップ。それは、爽やかさと清潔感、そして作り込みすぎない大人の余裕を、最高に美しい形で表現する、非常に洗練された髪型です。その、まるで無重力であるかのような軽やかな前髪は、緻密に計算されたカットと、日々の正しい手入れとの、幸福な協力関係によって、確かに支えられています。私たちは、お客様一人ひとりの髪質と真摯に向き合い、あなたの表情を、そしてあなたの毎日を、より一層輝かせるためのお手伝いをさせていただきたいと、心から願っております。