故人を偲ぶ場にふさわしい、お葬式における整髪料の選び方と髪型の整え方
お葬式や告別式といった儀式は、故人を静かに偲び、ご遺族にお悔やみの気持ちを伝えるための、非常に厳粛な場でございます。そのような大切な場に参列する際には、お召しになる服装だけでなく、髪型といった身だしなみの一つひとつにも、故人やご遺族に対する深い敬意と、その場をわきまえる配慮を込めることが、社会人として、そして一人の人間としての大切なマナーとなります。いざという時に、「整髪料は使っても良いのだろうか」「どのような髪型がこの場にふさわしいのか」と、迷われたり、不安に思われたりする方も少なくないことでしょう。この記事では、お葬式の場に参列する際の、髪型の基本的な考え方と、整髪料の適切な選び方・使い方について、髪の専門家である理容師の視点から詳しく解説してまいります。
お葬式における髪型の基本、「清潔感」と「控えめ」
お葬式の場における髪型の大原則は、ただ二つ、「清潔感」があり、かつ「華美でない、控えめな印象」であるということです。寝癖がついたままや、手入れがされずに伸びてしまった髪は、どうしてもだらしない印象を与えてしまい、故人への敬意を欠くものと見なされかねません。一方で、過度におしゃれを意識した、流行の髪型も、その場にはふさわしくありません。お葬式は、ご自身の個性を主張する場所ではなく、あくまでも故人を悼む気持ちを最優先にすべき、厳粛な儀式の場であることを、まず心に留めておく必要がございます。
整髪料は使っても良いのか、という疑問について
それでは、本題である整髪料の使用については、どう考えるべきなのでしょうか。結論から申し上げますと、「清潔感を出し、髪を最低限整えるために、適度な整髪料を使うことは、マナーとして全く問題ございません」。むしろ、何もつけないことでかえって髪がまとまらず、不潔な印象を与えてしまうのであれば、適切な整髪料を使って髪をきちんと整えるべきである、と私たちは考えます。ここで最も重要となるのは、「どのような種類の整髪料を使うか」、そして「どのように髪を整えるか」という、その選択と方法です。
お葬式の場で避けるべき整髪料の特徴
故人を偲ぶ場にふさわしくないとされる、避けるべき整髪料には、いくつかの明確な特徴がございます。
強い光沢や濡れ感を出すもの
ヘアジェルやヘアグリース、あるいは艶出し用のワックスなどが生み出す、濡れたような艶や、強い光沢のある質感は、「華美」、すなわち派手な印象を与えてしまうため、お葬式の場には適していません。
強い香りを放つもの
香水をつけていくことがマナー違反とされるのと同様に、香りの強い整髪料も避けるのが賢明です。ご自身が良い香りだと感じていても、その香りがお焼香の香りを妨げてしまったり、他の方が不快に感じたりする可能性がございます。できる限り、無香料のものを選ぶのが基本です。
髪を派手に動かしたり、固めたりするもの
髪をツンツンと立てたり、シャープな毛束を作って動きを出したりするような、セットする力の強いハードワックスやハードスプレーなどのご使用も、その場にふさわしいとはいえません。
使うことを推奨される整髪料とその使い方
お葬式の場で使用する整髪料は、髪に艶が出ることなく、自然な質感に仕上がる「マットタイプ」や「クレイタイプ」のワックス、あるいはセットする力が穏やかで、髪に自然なまとまりを与えてくれる「ヘアクリーム」などが最も適しています。その際の目的は、あくまで「髪の広がりや乱れを抑え、最低限のまとまりを与えること」であると、常に意識してください。ごく少量を手のひらに伸ばし、髪全体に薄くなじませるようにして、全体のボリュームを抑えるように手ぐしで撫でつけます。前髪が目にかかってしまう長さであれば、横に流して、お辞儀をした際に髪が顔にかからないように整えます。髪を「立たせる」あるいは「遊ばせる」のではなく、あくまで「寝かせる」「流す」という意識で髪を整えることが、大切なこつとなります。
敬意を表す身だしなみを、心と共に
お葬式における髪型や整髪料の選択は、ご自身のおしゃれのためではなく、故人と、そして悲しみの中にいらっしゃるご遺族に対する、深い敬意と弔意を示すための、非常に大切な表現の一つです。「清潔感」と「控えめ」という二つの原則を忘れず、適切な整髪料を正しく使って身だしなみを整えることは、社会人として、また一人の人間としての品格を示すことにも繋がります。いざという時に慌てないためにも、艶がなく香りの控えめな、こうしたフォーマルな場にも対応できる整髪料を、日頃から一つお手元にご用意されておくことをお勧めいたします。