70代からのヘアスタイル。「染めない」という選択、それでも「彩る」という喜び
70代という、実り豊かな人生の円熟期を迎えられ、これまで社会やご家族のために捧げてこられた時間から、より一層、ご自身の内なる声に耳を澄まし、穏やかな日々を謳歌されていらっしゃることと存じます。その中で、ふと、「長年、当たり前のように続けてきた、この白髪染めという習慣と、これから先、どう付き合っていくべきだろうか」と、ご自身のヘアスタイルについて、静かに思いを巡らせていらっしゃる方も、決して少なくはないのではないでしょうか。
この記事は、そのような思慮深い70代の皆様へ、私達プロの理容師が、単なる技術者としてではなく、一人の人間として、心からの敬意を込めてお伝えしたい、これからのヘアスタイルとの、より自由で、豊かな付き合い方に関する、ささやかなご提案でございます。
「毛染め(染める)」ことから、卒業する勇気と美しさ
まず、私達が、70代という素晴らしい年代を迎えられたお客様に、最も推奨したい、そして最も美しいと感じる選択肢がございます。それは、長年続けてこられた、白髪を「染める」という習慣からご自身を解放し、ありのままの自然な髪色を、慈しむというご決断です。
そのご決断は、年齢を重ねたからこそできる、非常に潔く、そして何よりも尊い選択であると、私達は考えております。全てが美しい銀色や白色になった髪は、他の誰にも真似のできない、あなたという個人が持つ、究極の個性であり、その豊かな人生経験が滲み出る、威厳の象徴です。不自然な黒さから解放された、その自然で品のある佇まいは、きっと周囲の人々の目にも、清々しく、そして美しく映ることでしょう。私達は、お客様のその勇気あるご決断を、心から支持し、その本来の美しさを最大限に引き出すお手伝いをさせていただきたいと、切に願っております。
美しいグレイヘアを維持するための、プロのお手伝い
ただし、この「染めない」という選択は、決して「何もしない(放置する)」ということと、同義ではございません。品格のある、美しいグレイヘアは、プロによる愛情のこもった手入れがあってこそ、その真価を発揮します。
髪を染めない分、その方の清潔感や品位を決定づける最も重要な要素となるのが、ヘアスタイルそのものの「形」です。私達プロの手によって、定期的にお客様の骨格に合わせて襟足や耳周りをすっきりと整え、輪郭のはっきりとした、清潔感あふれるヘアスタイルを維持することが、何よりも重要となります。
また、白髪は、そのままにしておくと、どうしても黄ばみが生じやすく、ツヤも失われがちです。サロンでの定期的な専門的トリートメントや、その黄ばみを穏やかに打ち消し、プラチナのような輝きを与えるための、ごくごく僅かな色素を補う「プラチナカラー」のような、特別なケアを行うことで、あなたのグレイヘアは、誰もが憧れる、本物の輝きを放ち始めるのです。
もし「染め続ける」という選択をされるなら
もちろん、様々なご理由から、あるいはご自身の美意識として、これからも髪を「染め続ける」ことをご希望されるお客様のお気持ちも、私達は深く、そして真摯に尊重いたします。
その場合に私達がご提案させていただくのは、もはや、髪と頭皮に大きな負担をかける、従来のアルカリ性の白髪染めではございません。頭皮への刺激がほとんどなく、髪の表面を優しくコーティングするように色とツヤを与える「ヘアマニキュア」や、化学染料に不安をお感じになるお客様へ向けた、植物由来の「ヘナカラー」など、より髪と身体に優しい選択肢です。いずれの方法を選択されるにせよ、お客様の現在の髪と頭皮の状態を最優先に、時間をかけた丁寧なカウンセリングを通じて、最適な方法を一緒に考えさせていただきます。
何よりも優先されるべき、お客様の「安全」と「健康」
70代のお客様への施術において、私達が、どのような美しいデザインや、おしゃれなご提案よりも、絶対的に優先するもの。それは、お客様の「安全」と、日々の「健康」です。
そのため、施術前のカウンセリングでは、髪や頭皮の状態だけでなく、お客様のその日のご体調や、現在治療中のご病気、服用されていらっしゃるお薬についてなど、差し支えのない範囲で、詳しくお伺いすることがございます。そして、私達の専門的な判断により、少しでも施術がお客様のご負担になり得ると感じた場合は、たとえお客様がご希望されたとしても、施術そのものを見送らせていただくという、勇気ある判断をさせていただく場合があることを、どうかご理解ください。
これからの人生を、あなたらしく、晴れやかに
70代からのヘアスタイルは、もはや、誰か他の誰かのためにあるのではありません。ご自身の、これからの豊かな人生を、より快適に、より晴れやかなお気持ちで過ごしていただくための、あなただけの、あなたご自身のものであるべきです。
「染める」という選択も、「染めない」という選択も、そのどちらが正しく、どちらが間違っている、ということは一切ございません。お客様ご自身が、最も心地よいと感じられる選択をされること。それこそが、唯一の正解です。その、人生における大切なご決断の過程で、もし専門家としての知識や、第三者としての客観的な意見が必要だとお感じになった時には、いつでも私達を頼りにしてください。お客様が重ねてこられた、その豊かな人生への、最大限の敬意をもって、私達は、あなたの声に、いつでも耳を傾けることをお約束いたします。