毛染めをしてはいけない、は本当?お客様の安全を第一に考える、プロの判断基準
手軽におしゃれを楽しむことができ、ご自身の印象を大きく変える力を持つヘアカラー。その素晴らしい魅力の一方で、化学的な薬剤を直接、髪や頭皮に使用する、専門的な知識と技術、そして細心の注意を要する施術であることを、私達は決して忘れてはなりません。お客様に心からのご満足と笑顔をお届けするためには、その土台として、完璧な「安全」が確保されていることが、何よりも不可欠であると、私達は考えております。
「自分は、ヘアカラーをしても本当に大丈夫だろうか」。そんな風にご自身の健康状態と向き合い、不安をお感じになる、その真摯な姿勢は、非常に大切なことです。今回は、私達プロフェッショナルが、お客様の安全を判断するために、どのような専門的な基準を持っているのか、その誠実な舞台裏を、包み隠さず詳しく解説してまいります。
まず、絶対にヘアカラーができない、という方について
まず、大変重要なこととして、以下に該当されるお客様につきましては、原則として、一般的なアルカリ性のヘアカラー(酸化染毛剤)による施術を、絶対に行うことができない、ということをご理解いただく必要がございます。
その最も重要な判断基準となるのが、「過去に一度でも、ヘアカラー剤を使用して、かぶれたご経験のある方」です。一度でもヘアカラーによって、かゆみ、赤み、腫れ、ぶつぶつといったアレルギー反応を経験された方は、次にカラー剤を使用された際に、「アナフィラキシーショック」と呼ばれる、より重篤な全身症状を引き起こす危険性が極めて高いことが知られています。これは、お客様の命に関わる問題ですので、決して「少しだけなら」「前回とは違う薬だから」といった自己判断をなさらないでください。
また、同様の理由から、施術の48時間前に行う「パッチテスト(皮膚アレルギー試験)」で、皮膚に何らかの異常が見られた場合にも、アレルギー反応の可能性が非常に高いため、当日の施術は、残念ながら見送らせていただくことになります。
施術を「見送るべき」、あるいは「慎重な判断が必要」な場合
上記のような絶対的な禁忌事項には当てはまらなくとも、お客様のその日のコンディションによっては、施術を延期された方が賢明な場合がございます。
例えば、「頭皮や、その周辺の顔、首筋などに、傷や腫れ物、あるいは湿疹などの皮膚病がある場合」です。薬剤が傷口などから皮膚の内部に侵入し、強い刺激を与えたり、症状を悪化させたりする危険性がございます。皮膚の状態が、完全に健康な状態に戻られるまで、施術はお待ちいただくのが賢明です。
また、「ご病中や、ご病後の回復期にある方、あるいは体調が著しく優れないと感じられる場合」も、注意が必要です。体調が万全でない時は、身体全体の免疫機能が低下しており、普段は全く問題のない方でも、薬剤の刺激に対して非常に敏感になったり、気分が悪くなったりする可能性がございます。
それでも髪色を楽しみたい方への、プロからの代替案
様々なご理由から、これまでご説明したアルカリ性のヘアカラーが難しいと判断された方でも、髪色のおしゃれを完全に諦める必要はございません。世の中には、異なる仕組みで髪に色を与える、様々な選択肢が存在します。
例えば、髪の内部には作用せず、表面を色素でコーティングするように染め上げる「ヘアマニキュア(酸性カラー)」や、植物由来の染料である「ヘナカラー」などは、アレルギーのリスクが比較的低いとされています。あるいは、その日限りの変化を楽しむための「カラースプレー」や「カラーワックス」といった方法もございます。これらの代替案が、お客様にとって本当に最適な選択肢となり得るか、私達はカウンセリングを通じて、真摯にご相談に乗らせていただきます。
「お断りする勇気」も、誠実さの証です
私達プロフェッショナルにとって、お客様からの「こうなりたい」というご要望に、持てる技術の全てでお応えすることは、もちろん、この上ない喜びです。
しかし、それ以上に、お客様の生涯にわたる健康と、かけがえのない安全をお守りすることこそが、私達に課せられた、最も重要で、最も重い責務であると考えております。そのためには、たとえお客様が強くご希望されたとしても、私達が持つ専門的な判断基準に基づき、時には心を鬼にして、施術を「お断りする勇気」が必要となる場面もございます。
目先の利益や、その場しのぎの施術ではなく、お客様の未来までを見据えた、誠実な判断を下すこと。それこそが、お客様一人ひとりに真摯に向き合う、「誠実なサロン」の証であり、私達の誇りであると信じております。