ヘアカラーは「濡れてる髪」にしても大丈夫?プロが明かす美しい仕上がりの鉄則
ご自宅で手軽にヘアカラーを楽しまれる方から、「髪が濡れてる状態で染めても良いのだろうか」というご質問をいただくことがございます。確かに、シャンプー後の濡れた髪にそのまま薬剤を塗布できれば、手間が省けて効率的だとお感じになるお気持ちは、よく理解できます。
しかし、その施術前の些細な一手間が、実はヘアカラーの仕上がりを天国と地獄ほどに分けてしまう、非常に重要なポイントなのです。今回は、この「濡れてる髪」へのヘアカラーが、なぜプロの現場では避けられているのか、その科学的な理由と、美しい髪色を実現するための譲れない鉄則について、詳しく解説してまいります。
なぜプロの現場では「乾いた髪」から始めるのが鉄則なのか
まず、私達プロフェッショナルが行うヘアカラーは、どのような場合であっても、必ず「完全に乾いた髪」の状態から施術を開始します。これは、薬剤の性能を100%引き出し、お客様の髪をあらゆるリスクから守るための、絶対的な基本ルールです。
その最大の理由は、薬剤が持つ本来の力を正確に発揮させるためです。ヘアカラー剤は、精密な化学計算に基づいて設計されており、髪の内部で正しく反応することで、初めて狙い通りの色を発色します。髪が水分を含んでいると、その水分で薬剤が薄まってしまい、発色不良や染まりが浅くなる原因となります。
また、髪が濡れている状態では、お客様一人ひとりが持つ本来の髪質やダメージの度合いを、私達が正確に診断することが困難になります。乾いた髪を見て、触れることで、初めてその髪の本当の状態が分かり、最適な薬剤の選定や塗り分けの計画を立てることができるのです。水分による染まりムラを防ぐという意味でも、乾いた状態は不可欠と言えます。
「濡れてる髪」に染めることの誤解とリスク
「濡れてる髪の方が、薬剤が伸びやすくて塗りやすい」と感じられるかもしれませんが、その手軽さの裏には、いくつかの見過ごせないリスクが潜んでいます。
薬剤が水分で緩くなると、髪に留まる力が弱まり、意図しない部分にまで垂れてしまう可能性が高まります。これが顔や首筋に付着すれば肌トラブルの原因となり、目に入れば大変危険です。また、頭皮が濡れていると、皮膚の保護機能であるバリアが弱まり、薬剤の刺激を普段よりも強く感じてしまうこともございます。手軽さというメリット以上に、仕上がりの質や安全性におけるデメリットの方が大きいのです。
例外的に「濡れてる髪」に行う施術とは
補足といたしまして、全てのヘアカラー製品が乾いた髪専用というわけではございません。例えば、シャンプー後に行う「カラートリートメント」のように、髪の表面に色素を吸着させて色味を補給するタイプの製品は、濡れている髪に使用することが前提となっています。
しかし、これらは髪の内部構造に働きかけて発色させる一般的なヘアカラー(アルカリカラー)とは、染まる仕組みそのものが根本的に異なります。もしアルカリカラーで「濡れてる髪OK」と記載されている製品があったとしても、それはあくまで利便性を優先したものであり、乾いた髪への施術に比べて、発色や色持ちの面で何らかの制約がある可能性は否定できません。
私達が「乾かす」という一手間を惜しまない理由
仮にお客様がシャンプーを済ませた直後にご来店されたとしても、私達は必ず一度、髪を完全に乾かすという工程を踏んでから、カラーの施術に入らせていただきます。
この「乾かす」という一手間は、決して無駄な時間ではございません。それは、お客様の髪をダメージや染まりムラから守り、私達がご提案した色を寸分の狂いもなく表現するための、プロとして譲ることのできない、こだわりであり責任感の表れなのです。最高のコンディションを整えてこそ、最高の仕事ができると、私達は信じております。
美しい結果への一番の近道は、基本に忠実であること
ヘアカラーという繊細な技術においては、基本に忠実な手順を一つひとつ丁寧に行うことが、結果的に最も安全で、最も美しい仕上がりへと繋がる確実な近道です。その基本を熟知し、お客様一人ひとりの髪の状態に合わせて最適化できる専門家に、あなたの大切な髪を、ぜひ一度お任せください。