「髪をすく」って、どういうこと?プロが一番やさしく教える、ヘアカットの基本
バーバーサロン(理容室)の椅子に座っていると、担当の理容師から「髪の量が多いので、少しすいておきますね」と、にこやかに声をかけられる。なんとなく頷いてはみたものの、心の中では「“髪をすく”って、一体全体、どういうことなんだろう?」と、今さら人には聞けない、素朴な疑問がぽっかりと浮かんだご経験はございませんか。その疑問は、決して恥ずかしいことではございません。むしろ、ご自身のヘアスタイルに、真剣に向き合っていらっしゃる、素晴らしい証です。今回は、その「髪をすく」という行為の、基本的な意味と目的について、世界一やさしく、そして丁寧に、ご説明させていただきます。
「髪を切る」と「髪をすく」は、目的が違います
まず、ご理解いただきたいのは、「髪を切る」という行為と、「髪をすく」という行為は、その目的が全く違う、ということです。私たちプロが行う**「髪を切る」という作業の主な目的は、お客様のヘアスタイル全体の「長さ」を決めることです。髪を短くしたり、前髪を作ったり、全体の形を美しく整えたりします。一方で、「髪をすく」という作業の主な目的は、髪の長さをほとんど変えることなく、髪の「量」**を、計画的に調整することです。髪がたくさん密集して、重たくなっている部分を、部分的に、そして丁寧に取り除いてあげる作業なのです。
イメージは、森の「間伐」。髪の中に道をつくる
「髪をすく」という行為を、もっとイメージしやすくするために、お客様のヘアスタイル全体を、たくさんの木々が豊かに生い茂る**「森」だと、少しだけ想像してみてください。木が過剰に密集しすぎている森は、どこか暗く、風通しが悪く、重たい印象を与えてしまいます。そこで、森全体の健康を保ち、美しさを引き出すために、林業のプロたちは、一部の木を計画的に伐採する「間伐(かんばつ)」**という、非常に重要な作業を行います。「髪をすく」という行為は、まさにこの「間伐」と、全く同じことなのです。お客様の髪の毛という美しい森の中に、私たちプロが、**目には見えない無数の「道」や「空間」**を、丁寧に創ってあげる。これにより、森全体の風通しを良くし、光を取り入れ、軽やかで、健やかな状態へと導いていく。これこそが、「髪をすく」ということの、本当の意味なのです。
「間伐」をすると、どんないいことがあるの?
では、この髪の「間伐」を行うと、具体的にどんないいことがあるのでしょうか。まず、森が軽くなるように、髪も物理的に軽くなります。これにより、毎日のシャンプーやドライヤーが格段に楽になり、日々の手入れがとても快適になります。次に、木々の間に空間が生まれて、それぞれが自由に枝を伸ばせるように、髪にも自然な動きが生まれます。ワックスなどのスタイリング剤をつけた時に、簡単に立体的なスタイルを作れるようになり、ヘアスタイルが一気におしゃれな印象になります。そして最後に、森全体の形が美しく整うように、ヘアスタイルのシルエットも美しくなります。頭の形に合わせて、膨らんで見える部分の木(髪)だけを間引くことで、頭全体の形がすっきりと、格好良く見えるようになるのです。
誠実な理容師は、最高の「森林管理者」です
しかし、この「間伐」は、誰がやっても同じ結果になるわけではございません。無計画に木を伐採すれば、森はスカスカになり、かえって荒れ果ててしまいます。私たち誠実な理容師は、お客様一人ひとりの「森」、すなわち髪質や骨格の特性を、誰よりも深く理解した、最高の「森林管理者」でありたいと考えております。どの木(髪)を大切に残し、どの木を間引けば、その森が、最も美しく、そして健やかに成長していくことができるのか。その長期的な計画までを、責任を持ってデザインさせていただく。それこそが、私たちの仕事なのです。
「髪をすく」とは、どういうことか。それは、あなたの髪という、世界に一つしかない美しい森を、もっと健やかに、もっと輝かせるための、私たちプロによる、愛情のこもった「間伐」作業です。これで、もう「すくってどういうこと?」と、心の中で迷う必要はございません。どんな些細な疑問でも、私たちはお客様が心からご納得されるまで、何度でも、そしてとびきり優しくご説明いたします。どうぞ安心して、あなたの森を、私たちにお任せください。