2025.08.24

髪をすく道具は、ハサミだけではない。プロの仕事場から紐解く、道具と技術の選び方

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プロの理容師の仕事場には、お客様の理想のヘアスタイルを、寸分の狂いもなく形にするための、実に多彩で、そして選び抜かれた「道具」たちが、その出番を静かに待っています。特に、ヘアスタイル全体の質感や量を繊細に調整する「髪をすく」という、極めて重要な作業においては、多くの方が想像される一つの道具だけでなく、複数の専門的な道具を、その目的やお客様一人ひとりの髪質に応じて、瞬時に、そして的確に使い分けているのです。今回は、私たちの「道具箱」の中身を少しだけ皆様にお見せしながら、それぞれの道具が持つ役割と、そこに込められた私たちのこだわりについて、ご紹介させていただきます。

Contents

主役となる道具①：すきバサミ（セニングシザー）
主役となる道具②：通常のハサミ（ブラントシザー）
名脇役となる道具：コームとレザー
すべての道具に共通する、たった一つの絶対条件

主役となる道具①：すきバサミ（セニングシザー）

まず、皆様が「髪をすく」と聞いて、最もイメージされるのが、櫛（くし）のようなギザギザの刃を持つ、この「すきバサミ（セニングシザー）」でしょう。その最大の役割は、髪の量を効率的に、そして均一に減らすことです。しかし、私たちが使うプロ用のすきバサミには、一度に梳ける髪の量が異なる「カット率」というものが存在します。髪の量が多くてお悩みの方にはカット率の高いものを、毛先の繊細な質感調整にはカット率の低いものを、といったように、お客様の状態に合わせて最適な一本を選んでいます。これは、セルフカット用の単一のハサミでは決して真似のできない、プロならではのこだわりです。

主役となる道具②：通常のハサミ（ブラントシザー）

意外に思われるかもしれませんが、実は私たちプロは、皆様が普段よく目にされる、両方の刃がまっすぐな「通常のハサミ（ブラントシザー）」を使っても、髪を梳くことができます。例えば、ハサミの刃を優しく滑らせるようにして毛量を調整する「スライドカット」や、毛先をリズミカルに刻むようにして束感を創り出す「チョップカット」といった高度な技法です。すきバサミが「面」として広範囲の量を減らすのに対し、通常のハサミでの梳きは、より「線」や「点」として、ピンポイントで繊細な質感をコントロールするのに適しており、よりデザイン性の高い「軽さ」を生み出すことができるのです。

名脇役となる道具：コームとレザー

これらの主役級のハサミたちの仕事を、影で支える名脇役たちも存在します。全てのカット技術の精度を支える「コーム（櫛）」は、髪を梳く際にも、引き出す毛束の幅や角度を正確に測るための、精密な「測定器」として、不可欠な役割を果たします。また、理容室ならではの道具である「レザー（剃刀）」は、コームと組み合わせて髪を優しく削ぐように梳くことで、ハサミだけでは表現することのできない、究極に柔らかく、そして自然な毛先の質感を創り出します。

すべての道具に共通する、たった一つの絶対条件

ここまで、様々な道具をご紹介してまいりましたが、これら全ての道具に共通する、最も重要で、決して譲ることのできない絶対条件がございます。それは、「完璧な切れ味」です。切れ味の鈍い道具は、お客様の大切な髪を「切る」のではなく、「傷つけ」てしまいます。それが、皆様が懸念される、枝毛や切れ毛といった、取り返しのつかないヘアダメージの、最大の原因となるのです。誠実な理容師が、営業後の静かな店内で、黙々と道具の手入れに時間を費やすのは、明日お会いするお客様の大切な髪を、絶対に傷つけないという、プロとしての、そして一人の人間としての、静かで、しかし揺るぎない「約束」なのです。

「髪をすく」という一つの目的のために、これほどまでに多彩な道具が存在し、それらが緻密な計算の上で使い分けられている。道具への深い理解と、それを常に完璧な状態で維持する誠実な姿勢。それこそが、心から信頼できるプロフェッショナルの証です。道具を愛し、お客様を愛する私たちの仕事を、ぜひ一度、その目と、ご自身の髪でご体感ください。

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