髪を梳くと「広がる」本当の理由。プロが実践する、ボリュームコントロールの法則
髪の量を減らして、すっきりとした扱いやすいヘアスタイルにするために、バーバーサロン(理容室)で髪を梳いてもらったにもかかわらず、かえって髪全体がまとまりなく「広がって」しまい、以前よりも頭が大きく見えてしまう…。そんな、まるで望んだ結果とは正反対の、悲しいご経験をされたことはございませんか。その忌々しい「広がり」は、決して偶然に起きたものではありません。そこには、髪が持つ性質と、カット技術に関する、明確な理由が存在するのです。今回は、その失敗のメカニズムを解き明かし、あなたの髪を素直でまとまりやすい状態へと導くための、プロの法則についてお話しさせていただきます。
髪が「広がる」3つの主なメカニズム
お客様が経験された「梳いたのに、広がる」という現象は、主に三つの、異なる、しかし時には複合的に絡み合ったメカニズムによって引き起こされます。
① 短い毛が、内側から押し上げてしまう
特に、髪の量が多い方や、髪質が硬い方に起こりやすいのが、この現象です。髪の内側を、全体のバランスを考慮せずに無計画に、そして大量に梳いてしまうと、短くなった毛が、まるでバネのような役割を果たし、表面にある長い髪を内側からぐっと押し上げてしまいます。その結果、スタイル全体が大きく膨らみ、ハチ周りが張ったような、不格好なシルエットになってしまうのです。
② 髪の重さがなくなり、クセが暴れ出す
ご自身で「くせ毛」だと感じていらっしゃる方は、髪が本来持つ「重さ」によって、ある程度そのうねりや広がりが、自然に抑え込まれています。しかし、その大切な「重し」の役割を果たしている髪を、必要以上に梳いて軽くしすぎてしまうと、これまで眠っていた本来のクセが一気に解放され、コントロールを失い、スタイル全体が大きく広がってしまうのです。
③ 表面のツヤが失われ、パサついて見える
髪の表面近くまで梳いてしまうと、本来は内側に隠れているべき短い毛が、表面にたくさん現れてしまいます。この短い毛が光を不規則に乱反射させるため、髪全体のツヤが失われ、パサついた質感に見えます。この乾燥したような質感が、物理的な広がり以上に、スタイル全体を大きく、そして膨張して見せてしまう原因ともなるのです。
プロは「広がり」を予測し、デザインに変換する
私たちプロの理容師は、お客様の髪にハサミを入れる前に、お客様の骨格や髪質から、どの部分が「広がりやすい」かを、長年の経験から瞬時に見極めます。そして、その広がりやすい部分の表面の髪は、「重し」として大切に残しつつ、ボリュームの根本的な原因となっている髪の内側だけを、まるで精密機械のように、ピンポイントで調整していきます。時には、お客様の髪が持つ「広がる」という性質を、ネガティブなものとして完全に抑え込むのではなく、トップの自然なボリューム感や、後頭部の美しい丸みを出すための「土台」として、計算ずくで活かすことさえあるのです。
「広がりたくない」を伝える、オーダーの魔法の言葉
私たちに、お客様の想いを的確に伝えていただくために、ぜひ使っていただきたい魔法の言葉がございます。それは、「髪が多くて量を減らしたいのですが、梳くと広がりやすいのが悩みなんです」という、ありのままの一言です。お客様の「減らしたい」という願いと、「広がりたくない」という不安、その両方を私たちと共有していただくことで、私たちはその難しい課題を解決するための、最も慎重で、そして最も最適な技術を選択することができるのです。
誠実な理容師は、あなたの髪の「性質」と向き合う
私たちにとって、お客様の髪質は、単なる作業の対象となるデータではございません。それは、一人ひとり全く違う、敬意を払うべき「性質」であり、愛すべき「個性」です。私たち誠実な理容師の仕事とは、その「性質」に力ずくで逆らって、無理やりスタイルを押し付けることではございません。その髪が、最も心地よく、そして最も美しく収まる場所はどこなのか。その髪が持つ素晴らしいポテンシャルを最大限に引き出すためには、どうすれば良いのか。髪の性質そのものと、どこまでも真摯に向き合い、対話すること。それこそが、私たちの仕事の、揺るぎない原点なのです。
「髪を梳くと広がる」という悲しい体験は、髪の性質を無視した、一方的な施術の結果です。あなたの髪が持つ「広がる」という性質は、プロの手にかかれば、悩みの種から、美しいシルエットを創り出すための、強力な個性へと変わります。もう、ご自身の髪質に悩む必要はございません。あなたの髪と、最高の和解をする。そんな特別な体験を、ぜひ私たちのサロンでお手伝いさせてください。