くせ毛は梳くと広がる?その常識を覆す、あなたのクセを活かすカット術
雨の日には思うようにまとまらず、汗をかけば独特のうねりが現れる。そして、毎朝のスタイリングは、まるで気まぐれなパートナーをなだめるような、根気のいる作業…。ご自身の「くせ毛」という個性と、長年そんな風に付き合ってこられた方も、少なくないのではないでしょうか。そして、ヘアサロンで「髪を梳きますか?」と尋ねられるたびに、「これ以上梳いてしまったら、もっと収集がつかなくなるのでは」と、一瞬のためらいや不安を感じてしまう。そのお気持ち、私たちプロは痛いほどよく理解しております。しかし、もしその「梳く」という技術が、あなたの悩みの種であるそのくせ毛を、最大の魅力に変えるための鍵だとしたら、どうでしょうか。
なぜ、くせ毛は梳くと「失敗」しやすいのか
まず初めに、お客様が抱かれるご不安の根源にある、「梳くと失敗しやすい」という現象についてご説明いたします。くせ毛は、一本一本が独自の個性的なカーブを描いています。髪が密集している状態では、その重さや周りの髪との摩擦によって、お互いを抑え合い、ある程度の均衡を保っています。しかし、髪の特性を深く理解せずに、ただやみくもに内側の髪を梳いてしまうと、その繊細な均衡が崩れ、これまで眠っていた髪本来のクセが一気に表面化し、スタイル全体がコントロールを失い、大きく広がってしまうのです。これこそが、多くの方がご経験されてきた、「梳いたら余計にまとまらなくなった」という現象の正体にほかなりません。
プロは「くせの地図」を読み解き、梳く場所を選ぶ
では、私たちプロは、どのようにしてその繊細な均衡を保ちながら、くせ毛をコントロールしているのでしょうか。それは、お客様の頭全体の「くせの地図」を、注意深く読み解くことから始まります。
活かすクセと、抑えるクセ
私たちはまず、パーマをかけたかのような美しい動きを生み出す「活かすべきクセ」と、ボリュームが出すぎてしまう原因となっている「抑えるべきクセ」を、長年の経験と観察眼で的確に見極めます。
「重さ」こそが、くせ毛の最高のスタイリング剤
そして、髪の表面や、美しいカールを描いている毛先の部分は、あえて梳かずに「重さ」を残します。この計算された重さこそが、天然のスタイリング剤のように、不要な広がりやパサつきを抑え、美しいまとまりを生み出してくれるのです。
ボリュームの震源地だけを狙う
その上で、膨らみの原因となっている髪の「内側」の、さらにクセの動きが比較的弱い部分だけを狙い、まるで精密な作業のように、最小限の量だけを丁寧に取り除いていきます。これにより、全体のシルエットは美しく整えられ、かつ、くせ毛が持つ本来の柔らかな質感は、決して失われることがないのです。
くせ毛のあなたが、オーダーで伝えるべきこと
私たちにくせ毛のお悩みを打ち明けてくださる際は、ぜひ「ご自身のくせ毛を、今後どうしていきたいか」という想いをお聞かせください。「このうねりを、できるだけストレートに近い自然な感じに見せたい」のか、それとも「このカールを活かして、外国人のようなパーマスタイルに見せたい」のか。お客様のその想いを共有していただくことが、私たちにとって最高の道しるべとなります。
その「くせ」は、あなただけのギフトです
私たちは、お客様が持つ「くせ」を、決してネガティブなものだとは考えておりません。それは、直毛の方がどんなに時間やお金をかけてパーマを施しても、決して手に入れることのできない、あなただけに与えられた、世界に一つだけの素晴らしい「ギフト(贈り物)」なのです。私たち誠実な理容師の使命は、そのギフトの最も美しい部分を最大限に引き出し、これまで長年コンプレックスであったかもしれないものを、ご自身が最も愛せるチャームポイントへと変える、そのお手伝いをさせていただくことです。
「くせ毛を梳く」という行為は、その髪の特性を深く理解したプロの手にかかれば、悩みを増やすものではなく、あなたの個性を最高に輝かせるための魔法の技術に変わります。もう、ご自身の髪質に悩む必要はございません。あなたの「くせ」と共に、最高のヘアスタイルを創り出す。そんな特別な体験を、ぜひ私たちのサロンで見つけてください。