理髪店のドライヤーテクニック。スタイリングは「乾かし方」で決まる
理髪店でヘアスタイルを仕上げてもらった日、その完璧な仕上がりに、鏡の前で思わず心が躍る。しかし、翌朝ご自身でスタイリングを試みると、整髪料をどれだけ使っても、なぜかあの日と同じようには決まらない。そんなご経験はございませんか。実は、その違いを生み出している最大の要因は、整髪料を付ける前の「ドライヤーの使い方」にあるのです。
ドライヤーは「乾かす」道具ではなく、「形作る」道具
多くの方が、ドライヤーを単に「髪を乾かすための道具」とお考えかもしれません。しかし、私たちプロの理容師にとって、ドライヤーはヘアスタイルの土台となるシルエットを「形作るための、最も重要な道具」です。髪の毛は、熱が加わると柔らかく変形しやすくなり、そして冷える瞬間にその形が固定される、という性質を持っています。この原理を巧みに利用し、スタイルの8割はドライヤーの段階で創り上げてしまうのです。整髪料は、その後の質感調整や、キープ力を高めるための、いわば仕上げの役割なのです。
プロが実践する、基本的なドライヤーの使い方
ご自宅でも、ほんの少しのコツを意識するだけで、仕上がりは格段に向上します。
根元をしっかりと乾かす
まず大切なのは、毛先ではなく、髪の根元と頭皮を中心に、指の腹で優しく擦るようにして全体をしっかりと乾かすことです。髪の毛の向きやボリュームは、全て根元の状態で決まります。
ボリュームを「出す」乾かし方
トップなど、ふんわりと高さを出したい部分は、髪の根元を持ち上げるように指を入れ、下からドライヤーの温風を当てます。これにより、根元が立ち上がり、一日中潰れにくい、立体的なシルエットの土台ができます。
ボリュームを「抑える」乾かし方
逆に、ハチ周りなど、広がりを抑えたい部分は、髪の流れに沿って、ドライヤーの風を上から下に当てるように乾かします。手のひらで軽く押さえながら乾かすと、よりタイトに収まりやすくなります。
冷風を制する者は、スタイリングを制する
そして、プロが必ず実践する、とっておきの秘訣が「冷風」の活用です。温風で髪の形を創った後、その部分にドライヤーの冷風を数秒当てることで、形が瞬時に固定され、スタイルの持続性が劇的に向上します。この温風と冷風の使い分けこそが、プロの仕上がりとご自宅でのスタイリングの大きな差を生み出しているのです。
誠実な理容師は、あなたの「明日」までを考えている
私たち誠実な理容師の仕事は、お店でお客様を格好良くして終わり、ではありません。お客様がご自宅に帰られた後、次のご来店までの毎日を、ご自身で簡単に、そして素敵にスタイリングできるか。そこまでを想像し、そのための土台となるカットを創り、そしてその再現方法を丁寧にお伝えすること。それこそが、お客様の毎日に寄り添う、私たちの最も大切な役割であると考えています。
施術の最後、ドライヤーを当てながら、私たちはただ髪を乾かしているのではありません。お客様がご自身で最高のスタイルを再現できるよう、私たちの技術と想いを、その一風一風に乗せてお伝えしているのです。どうぞ、スタイリングに関するどんな些細なことでも、私たちにお尋ねください。