理容院で髪を「すく」ということ。軽さと思惑違い、その境界線を創るプロの技
「髪の量が多くて重たい印象になる」「もう少し軽くして、スタイリングしやすくしたい」。そうお感じになった時、多くの方が「髪をすいてください」というオーダーを思い浮かべることでしょう。「すく」という技術は、手軽に髪のボリュームを調整できる、非常に便利な方法です。しかしその一方で、この「すく」という行為は、一歩間違えるとスタイル全体のバランスを崩しかねない、極めて繊細で奥深い技術でもあるのです。
この記事では、理容院でプロの理容師が施す「髪をすく」という技術の本当の意味と、皆様が失敗せずに理想のヘアスタイルを手に入れるための、大切なポイントについて詳しく解説してまいります。
髪を「すく」ことの本当の目的とは
多くの方が、「すく=毛量を減らす」ことだとお考えかもしれません。もちろんそれは間違いではございませんが、プロの理容師が髪をすく目的は、それだけではございません。
ヘアスタイルに軽さと動きを与える
髪が重なり合う部分の量を的確に調整することで、ヘアスタイル全体に軽やかな質感を与え、毛先に自然な動きや束感をプラスします。これにより、ただ短いだけではない、表情豊かなスタイルを創り出すことが可能になります。
シルエットを整え、頭の形を美しく見せる
プロの「すく」技術は、骨格補正という、より高度な目的も持っています。例えば、ハチ(頭頂部横)の張りが気になる部分のボリュームを内側からそっと抑え、逆に後頭部に丸みが欲しい部分のボリュームは活かす、といった具合です。必要な部分だけを計算してすくことで、お客様一人ひとりの頭の形を、より理想的なシルエットに見せることができるのです。
プロの技術と、自己流で「すく」ことの大きな違い
プロの理容師は、お客様の髪の内側、中間、毛先と、すく場所や量をミリ単位で計算し、計画的に毛量調整を行います。髪の表面を傷つけず、内側から丁寧に量感を取り除くことで、まとまりを失うことなく、美しい軽やかさを実現します。
一方で、ご自身ですきバサミ(セニングシザー)を使って表面の髪をやみくもにすいてしまうと、短い毛が表面に飛び出し、パサつきやまとまりのなさ、いわゆる「アホ毛」の原因となってしまいます。一度短くなってしまった髪は、伸びるまで元には戻りません。安易なセルフカットは、プロから見ても修正が非常に難しい「失敗」に繋がる危険性が高いのです。
失敗しない「すいてください」の伝え方
プロにオーダーする際も、伝え方一つで仕上がりの満足度は大きく変わります。ぜひ、以下のポイントを心掛けてみてください。
「なぜ、すきたいのか」その理由を伝える
「すいてください」という一言で終えるのではなく、ぜひその奥にあるお客様の「お悩み」や「目的」をお聞かせください。「サイドが膨らんでしまうのが気になる」「トップに動きが欲しい」「毎朝のセットを楽にしたい」といった具体的な理由を伝えていただくことで、理容師は、そのお悩みを解決するための最適な「すき方」をご提案することができます。
「すくだけ」で良いのか、プロに相談する
「長さは変えずに、すくだけでお願いします」というオーダーも可能ですが、多くの場合、全体の長さを少し整えながらすいた方が、より完成度の高いスタイルに仕上がります。まずは「今の長さは気に入っているのですが、重さが気になります。どうするのが一番良いでしょうか?」と、プロの視点を尋ねてみることが、失敗を防ぐ最善の方法です。
髪質によっては、「すかない」方が良い場合も
誠実な理容師は、お客様のご要望をただ鵜呑みにするわけではございません。例えば、髪が細く柔らかい方や、くせが強い方が髪をすきすぎてしまうと、かえってまとまりが悪くなったり、望まないくせが強く出てしまったりすることがございます。プロの理容師は、お客様の髪質を正確に診断し、時には「今回は、あまりすかない方が髪が綺麗に見えますよ」といった、正直なご提案をすることも大切な仕事だと考えています。
理容院で髪を「すく」という行為は、単なる毛量削減の作業ではございません。それは、お客様の骨格や髪質を深く理解し、理想のスタイルを形にするための、繊細で知的なデザインの一部なのです。ぜひ、あなたの髪を最も美しく見せる「軽さ」と「まとまり」の最適なバランスを、信頼できる理容師にご相談ください。