理容院の店先で回る「クルクル」の正体。三色に秘められた深い意味とは
街を歩いていると、理容院の店先で赤・白・青の縞模様が「クルクル」とゆっくり回転している光景を目にします。それは、私たちにとって昔から馴染み深い風景の一つですが、その一方で「あの棒は、一体何という名前なのだろう」「なぜ、赤・白・青の三色なのだろう」と、一度は疑問に思われたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
実は、理容院のシンボルとも言えるあの「クルクル」には、理容という仕事の壮大な歴史と、深い意味が込められています。この記事では、その謎めいた存在の正体について、詳しく解説してまいります。
あの「クルクル」の正式名称は「サインポール」
まず、皆様が最も知りたいであろう、あの回転灯の正式名称。それは「サインポール(Sign pole)」と言います。日本では、その見た目から「三色ねじ」と呼ばれたり、伝統的な飴菓子に似ていることから「有平棒(あるへいぼう)」という粋な愛称で呼ばれたりすることもあります。このサインポールは、日本だけでなく世界中の多くの国で、「ここが理容院です」ということを示す、共通の目印として広く親しまれています。
三色の縞模様に秘められた、その歴史と意味
では、なぜサインポールは「赤」「白」「青」の三色で構成されているのでしょうか。その由来を紐解くには、中世ヨーロッパの時代にまで遡る必要があります。
理容師が外科医を兼ねていた時代
今では想像もつかないかもしれませんが、中世ヨーロッパにおいて、理容師は単に髪を切るだけでなく、簡単な外科手術や歯の治療、そして当時は一般的な医療行為であった「瀉血(しゃけつ)」なども行う、「理容外科医」として活動していました。理容師の仕事は、人々の体を清潔に保ち、健康を管理するという、非常に重要な役割を担っていたのです。
「赤」「白」「青」が象徴するもの
この理容外科医の仕事内容こそが、サインポールの三色に深く関わっています。最も有力とされている説では、それぞれの色が次のようなものを象徴していると言われています。
- 赤:動脈(血液)
- 青:静脈
- 白:包帯
つまり、サインポールは元々、理容外科医が行っていた医療行為を象徴する看板だったのです。また、ポール全体が、瀉血の際に患者が痛みをこらえるために握りしめた棒を模している、とも伝えられています。
現代におけるサインポールの役割
医療と分業化された現代において、サインポールが持つ意味合いも少しずつ変化してきました。しかし、今なお理容院にとって、なくてはならない大切な存在であることに変わりはありません。
「営業中」を知らせる大切な目印
現代におけるサインポールの最も分かりやすい役割は、お店が営業しているかどうかをお客様にお知らせすることです。ポールがくるくると回転していれば「営業中」、回転が止まっていれば「閉店中」というのが一般的です。お客様が遠くからでも一目で営業状況を判断できる、大切な目印となっています。
信頼と伝統のシンボルとして
そして何よりも、サインポールは、理容師がその長い歴史と伝統を受け継ぎ、お客様の容姿を整えるための専門的な知識と技術を持つプロフェッショナルであることの、静かな証でもあります。誠実な理容師がいるお店の店先で輝くサインポールは、お客様に「安心して、この扉を開けてください」という無言のメッセージを送り、信頼感を与えるシンボルとして、今日も静かに回り続けているのです。
次に街でサインポールを見かけた際には、ぜひその三色に込められた壮大な歴史に、少しだけ思いを馳せてみてください。その輝きは、今日もお客様を誠実にお迎えする準備が整っているという、理容師からのメッセージなのです。