刈り上げの「手順」をプロが解説。セルフカットを成功させる基本ステップ
刈り上げのカット「手順」は、まるで料理のレシピのようなものです。
手順通りに進めれば、ある程度の形にはなるかもしれません。
しかし、なぜかプロの料理人が創る一皿とは、全く違う。その差は、レシピには決して書かれることのない、素材の選び方や、絶妙な火加減といった、「見えない手順」に隠されています。
この記事では、まず、セルフカットを成功させるための基本的な手順を解説します。
そして、その奥に隠された、プロだけが知る、思考のプロセスと技術の秘密を解き明かしていきます。
始める前の“下ごしらえ”。準備すべき道具と心構え
最高の料理が、良い下ごしらえから始まるように、セルフカットも、まずは準備から。
これを怠ると、失敗の確率は格段に上がります。
- セルフカットを始める前の3つの準備
- ① 必須の道具を揃える
最低限、複数のアタッチメントが付いた「バリカン」、刈り上げの境界線をぼかすための「すきバサミ」、後頭部を確認するための「合わせ鏡」、そして髪の落下を防ぐ「ケープ」は用意しましょう。 - ② カットする場所を確保する
切った髪は、想像以上に広範囲に飛び散ります。掃除がしやすく、そして何よりも、手元がはっきりと見える、明るい場所(洗面所など)を確保しましょう。 - ③ 完璧を求めすぎないという心構え
最も重要な心構えです。初めてのセルフカットで、プロと同じ仕上がりを目指すのは不可能です。「今回は、少しすっきりさせる」くらいの、低い目標設定で臨むことが、大きな失敗を避けるコツです。
- ① 必須の道具を揃える
失敗しないための基本手順。4つのステップを追う
準備が整ったら、いよいよ実践です。
慌てず、一つ一つの手順を、丁寧に進めていきましょう。
- セルフカットの基本4ステップ
- 【手順1】
ブロッキング:髪を正確に分け取る
刈り上げる部分と、残す部分を、ヘアクリップなどで正確に分け取ります。この最初の設計が、仕上がりの全てを左右します。【プロの視点:プロは、この時点で骨格を見極め、最も頭の形が綺麗に見える分割ラインを瞬時に決定します。】 - 【手順2】
長いミリ数から刈り始める
必ず、9mmや12mmといった、長めのアタッチメントからバリカンを入れ始めましょう。一度短くした髪は、もう元には戻りません。【プロの視点:プロは、お客様の髪質(硬さ、生え方)を見て、同じ6mmでも、どの角度でバリカンを入れれば最適かを判断します。】 - 【手順3】
徐々に短いミリ数へ変更する
襟足など、より短くしたい部分を、少しずつ短いアタッチメントに変えて、グラデーションをつけていきます。【プロの視点:プロは、アタッチメントだけに頼らず、くし(コーム)とバリカンを使い、ミリ単位以下の、滑らかなグラデーションを創り出します。】 - 【手順4】
サイドの左右を合わせる
鏡を見ながら、左右の刈り上げの高さや形が、対称になるように整えます。【プロの視点:プロは、お客様のつむじの位置や、生え癖による左右の違いまでを計算し、見た目上で完璧な左右対称を創り出します。】
- 【手順1】
ここが最難関。後頭部と“繋がり”を制する応用手順
基本的な手順は理解できても、セルフカットには、素人ではほぼ乗り越えられない、2つの大きな壁が存在します。
- セルフカット、2つの最難関
- 【後頭部の手順】
合わせ鏡との、終わりなき戦い
自分では直接見ることのできない後頭部。合わせ鏡を使い、左右反転した像を見ながら、バリカンを正確に動かすのは、まさに至難の業です。多くの方が、ここで断念します。 - 【繋ぎの手順】
すきバサミによる“ぼかし”の罠
刈り上げた部分と、トップの長い髪との境目を、すきバサミで自然に繋げる(ぼかす)作業。これも、極めて高度な技術です。一部分だけを梳きすぎると、そこに穴が空いたようになり、取り返しのつかない失敗に繋がります。
- 【後頭部の手順】
なぜプロの手順は、美しく、そして“早い”のか
なぜ、プロの理容師は、これほど複雑で難しい手順を、驚くほどのスピードで、そして完璧に、仕上げることができるのでしょうか。
その答えは、プロの仕事が、長年の反復練習によって体に染み付いた、芸術的なまでに効率化された「一連の所作」だからです。
プロは、カットを始める前に、あなたの骨格と髪質から、完成形までの全ての「手順」を、脳内で完璧に組み立てています。
どの角度に立ち、どの道具を、どう動かせば、最短時間で、最高のクオリティに到達できるか。
その無駄のない、流れるような身体の使い方は、まさに熟練の職人技。
だからこそ、早く、そして美しいのです。
“手順”を知ることで、本物の価値が見えてくる
セルフカットの「手順」に挑戦してみること。
それは、自分の髪を手入れする上で、非常に有益な経験です。
しかし、それ以上に、普段何気なく受けている、プロの仕事がいかに高度で、緻密な計算の上に成り立っているのかを、身をもって知ることができる、最高の教材とも言えるでしょう。
もし、あなたが、レシピの先にある、本物のプロの味を知りたくなったなら。
ぜひ一度、その“見えない手順”の全てを、プロの理容師の特等席で、体験してみてはいかがでしょうか。